投稿日: 2019.12.18 10:55

スーパーフォーミュラストーブリーグ:2020年セルモは3台体制か。疑問残るパロウのホンダ離脱


スーパーフォーミュラ | スーパーフォーミュラストーブリーグ:2020年セルモは3台体制か。疑問残るパロウのホンダ離脱

 このストーブリーグで、もっとも注目を集めているのがアレックス・パロウの動向だ。2019年、ルーキーとは思えぬ驚きのスピードを見せたことで、国内ではトヨタ、ニッサンの両陣営からもGT500の誘いがあったと言われている。しかし、結論を先に言えば、2020年のパロウは日本にとどまらず、アメリカでインディカーシリーズに参戦する可能性が出てきた。

 米国ではすでに取りざたされているが、デイル・コインレーシングがセバスチャン・ブルデーの代わりとして、ベテランのジェームズ・ヒンチクリフ、今季FIA-F2でシリーズ4位につけた実力派のセルジオ・セッテ-カマラ、そして我らがアレックス・パロウの3名を候補に挙げているのだ。

 デイル・コインといえば現在は3強に次いで“セカンドグループのトップ”を争うチームであり、佐藤琢磨が所属するレイホール・レターマン・ラニガンなどと同格にある。琢磨の成績を見れば分かるとおり、それはつまり「勝てる」レベルにあるチームということだ。

 以前、auto sport本誌のインタビューでパロウ本人は「インディを戦うことが夢」と語っていただけに、彼は夢に近づけたことになる。日本のファンにとっては寂しいが、彼の実力がアメリカでも認められたことを素直に喜び、応援したいといころだ。

2019年シーズン、最終戦までシリーズチャンピオンを争ったアレックス・パロウ。2020年はインディカー転向が噂されている
2019年シーズン、最終戦までシリーズチャンピオンを争ったアレックス・パロウ。2020年はインディカー転向が噂されている

 一方で、ホンダがパロウをつなぎ止められなかったことには疑問が残る。とくにスーパーフォーミュラはホンダエンジンを搭載するNAKAJIMA RACINGからのエントリーだったことを考えれば、早いうちから交渉を始めることでGT500の自陣営に引き込むことができたはずだ。

 国内だけでなく、アメリカでも認められるほどの実力を持つパロウを、なぜホンダはみすみす逃してしまったのか。その疑問には、あるレース関係者が推論をもって答えてくれた。

「レーシングカーを0.1秒速くするためにはそれなりの開発費が必要になる。たとえばそれをエンジンだけで稼ごうとすると(すでに開発もある程度進んでいるので)膨大な資金が必要になる。会社側の立場に立てば少しばかり契約金が高くても速いドライバーを雇い入れることで、あっという間にその開発費を浮かせることができるんです」

「レース界では基本中の基本となる考え方ですよね。若手の発掘・育成もやっているホンダさんなら分かると思いますが、パロウのようなドライバーを見つけて、あそこまで育てるためには莫大な投資が必要なわけですから」

 では、なぜホンダは“レースの基本”からはずれて、わざわざ「支出がかさむ」もしくは「効率(かけたコストに対する成績)の悪い」決断を下したのか? 疑問は深まるばかりだ。

「“お財布が違う”のかもしれませんね。たとえば、開発費は本田技術研究所のHRD Sakuraで、ドライバーとの契約金などは本田技研工業の青山本社側で管理していたなら合点はいきます。そうするとジェンソン・バトンとの契約を打ち切って、若手で固めることで青山本社サイドのコストは減らせます」

「しかし、じつのところそれは目先のコストだけの話で、実際は同じ成績を得ようとした場合、真逆の選択なのですが。また忘れてはならないのは、それは自分たちの都合であることです」

「本来であれば応援してくれるファンを向いて活動しなければならないところを、会社の上層部や目先のコスト削減だけを注視してしまうと今回(パロウを逃す)のような事態に陥るわけです」

「研究所と青山本社を合わせた“ホンダ全体”として結局は大損してしまった。しかも、これは単年ではなく複数年にわたって関わってくることですから、今回の采配はホンダにとって数十億円規模の損失でしょう」

 いずれにせよパロウを失ったホンダ勢は、ふたたびラインアップを考え直すはずだ。テストを見る限りDANDELION、TEAM MUGEN、REAL RACINGのほか、NAKAJIMA RACINGの牧野任祐とB-MAXのルーカス・アウアーに変更はなさそうだ。またB-MAXについては先日、ピエトロ・フィッティパルディが自身のTwitterで同チームからのスーパーフォーミュラ復帰を発表している。

 そのため、残るシートはNAKAJIMA RACINGの1台(2019年のパロウ車)、スリーボンドの1台という計2席で、そこを大津弘樹、大湯都史樹、シャルル・ミレッシ、そして松下信治らが争うかたちか?

 そのなかで最大のポイントは松下の動きだ。現在、FIA-F2の3チームからオファーを受けている松下が、どのような判断を下すか。そこが確定すれば謎は、すべて解ける。


関連のニュース