スーパーGT:GT500は全車FRで新時代へ。岡山テストで好調のトヨタ&ホンダ、トラブルが多かったニッサン
さて、好タイムを出した2メーカーに対し、ニッサンはどうだったのか。昨年に引き続き車種もGT-Rのままで、変わったと言えば空力くらいで3車中もっとも変化が少ない。となれば順調に熟成が進むはずである。
思い起こせばちょうど1年前の同テストでは、カルソニック IMPUL GT-Rが2番手以下に約コンマ7秒もの差をつけるぶっちぎりの速さだった。だが2020年は平凡なタイムに終わっている。ニッサン勢最速のMOTUL AUTECH GT-Rは7番手に終わった。
一見、不安を残す結果に見えるが、数字ほど悪くはないようだ。松田次生によれば、「クルマは乗りやすくなり、タイヤも悪くない」と語っている。
「全体的にレベルアップしている印象です。昨年はブレーキがナーバスだったけど、今年はそれもなく乗りやすくなった。タイヤはウエットもがんばってくれている」
ミシュランの小田島広明氏によれば、「昨年重要課題は特にはなかったので、正常進化」と語っているが、今のところそれは順調のようだ。3月初旬には同じ岡山でウエットテストを行なっており、その効果も出ている模様。ちなみにブリヂストンは今季は予選一発を課題に掲げて開発している。
GT-Rの乗りやすさに関しては、他のニッサンドライバーも同じ意見だ。高星明誠が「無難にできている」と語れば、今季からGT500復帰の千代勝正も「運転しやすく素直」と口をそろえる。
ただGT-Rはややトラブルが目立つ。今回も含め、プロペラシャフトの破損があったり、セパンテストでは前半にエンジントラブル(正確には本体ではなくその周辺個所)で載せ替えを余儀なくされた。旧型と比べて仕様の変化が多ければ初期トラブルはありがちで致し方ないところだが、GT-Rはライバルよりもそれは少ないはずなのになぜ? という疑問が残る。
なお、パドックでは「2020年、ニッサンはついにプレチャンバーを導入した」という噂が流れている。もしかしたらそれに起因するトラブルが頻発しているのかもしれない。先行投入しているライバルも、当初は制御や信頼性確保に追われたとも聞く。ニスモの石川裕造氏にそのあたりを直撃すると、「準備はしています」という答えが返ってきた。
「以前から言っているように、その準備はしていて、まだまだ試してはいます。今回載せているエンジンは今年仕様ですが、プレチャンバーが入っているかどうかは、ちゃんと答えないでおきます」
もしもGT-Rにプレチャンバーが入っているとすれば、エンジン戦争はもうワンランク上の次元に突入したことになる。
ちなみに今年のマシンのシェイクダウン当初、3メーカーとも制御で苦労していた“ボッシュ問題”はほぼクリアしていると思われ、その点に関しての不満の声は聞くことはなかった。
今回の各陣営のピットは、新鮮な顔ぶれが多かった。ステップアップしてきたルーキーや移籍、復帰など、何らかの変化があったコンビが9組。テスト前は各ドライバーの走りに期待が集まったが、天候に恵まれなかったのが残念なところ。
初日は雨混じりで、2日目はドライ路面が多かったものの、底気温でタイヤがなかなか温まらず、ピットロードでは走り出しでハーフスピンするマシンもいたくらいである。メニューが押すため必然的にファーストドライバーの出番が多くなり、新人にとっては難しい状況と言えた。
それでもそのセッションのベストタイムを新人が出している場合もあり(コンディションが不安定なので本当の意味でのベストとは言い難いが)、安定したドライ路面で本当の実力を見てみたいと思わせる面々が多い。
このようにエンジニアなども含めた体制面で見れば、2020年はほとんどのチームで変化があった。それゆえ例年以上に開幕までとシーズン中での浮き沈みの幅が広くなることが予想される。昨年のカルソニックGT-Rの例でも分かるように、岡山公式テストの結果が、そのまま開幕戦をはじめその後の速さに結びつくとは限らない。
開幕戦が延期されたことも、開発やセットアップの熟成に影響することだろう。いつか必ず行われる開幕戦は、今年は「開けてビックリ」な展開になってもおかしくない。静寂から一転し、賑やかなスタンドから、その戦いを見届けよう。