更新日: 2021.08.26 10:26
悔しさを越えて……ビッグチャンスを逃した3台。Red Bull、カルソニック、ARTAの苦悩【第3戦鈴鹿GT500決勝】
●一時はトップ4形成も、表彰台独占から外れてしまった12号車カルソニック IMPUL GT-R
トップに立ちながら優勝を逃した16号車と同等以上に今回のレースで悔しい思いをしたのが、ニッサンGT-Rの表彰台独占の快挙から1台だけ外れてしまった12号車カルソニック IMPUL GT-R(SW6kg)だった。
30周目から38周目まで、ニッサンGT-Rが1位から4位のトップ4を占めるという、歴史的偉業が期待されたなか、12号車は一時2番手を走行しながらも23号車MOTUL AUTECH GT-R(SW4kg)にかわされ、39周目に1号車STANLEY NSX-GT(SW64kg)に4番手を奪われると、36号車au TOM’S LC500(SW52kg)にも抜かれてしまい、6位でレースを終えた。
12号車カルソニックの後半スティントを担当した平峰一貴はレース後、悔しさのあまりトランポ内でずっと籠もったままだった。私服に着替えて駐車場に向かう帰り際、ようやくコメントを聞くことができた。
「もう、辛いレースでした。ニッサン陣営のなかでも、予選から僕たちが一番ペースがないのは見て分かっていた。決勝もアウトラップから計測1~2周目くらいまではよかったのですけど、そこからペースが上げられなくて、どんどん落ちていってしまいました。ピックアップもあったのですけど、それは今までもあったことなので……タイヤだけでなくクルマ、ドライバー、すべてが噛み合っていない状況なのかもしれないですね。自分のなかでは全力を尽くしたつもりですけど……ダメっすね」
昨年、GT500にステップアップして、今回の鈴鹿が初めて上位フィニッシュが見えた大きなチャンスだった。これまで成績が良くないときでも忌憚なくメディアの取材に応える平峰も、さすがにレース直後はトランポ内で感情的になってしまったようだ。
「まあ……ね……一番、しょぼかったですからね。自分のなかでは計測3周目くらいで、『ああ、今日のレースは辛いな』と。ペースが落ちてくるなと分かっていましたけど、それを考えないようにとにかく最後まで全力を尽くしたつもりだったんですけど……。(2番手争いをした)23号車には(NISSINブレーキ)ヘアピンで抜かれてしまいました。23号車はもう、異次元の速さでしたね。1周2秒くらい速かった。1周1秒差くらいだったら抑えられたかもしれないですけど……無理でしたね。しゃあないです。次のSUGOではすごくいい結果を残せるように頑張ります」
●ホンダNSX陣営のなかでもっともチャンスだった8号車ARTA NSX-GTだが……
前回優勝の1号車STANLEY NSX-GT(SW64kg)が4位に入ってランキングトップとなり、17号車Astemo NSX-GT(52kg)も7位に入るなど、サクセスウエイト(SW)が重い状態でもホンダNSXのブリヂストン勢は決勝で速さを見せたが、そのブリヂストン勢のなかで取り残されてしまったのがもっともSWが軽い8号車ARTA NSX-GT(SW26kg)だった。
8号車ARTAは予選では5番手を獲得し、優勝候補にも挙げられており、少なくとも表彰台争いに絡むとみられていたが、まさかの11番手でレースを終えることになってしまった。後半スティントを担当した野尻智紀はレース後、エンジニアやチームスタッフと長いミーティングを実施。その合間に、取材に応えた。
「持ち込みの段階では『このフィーリングだったら予選はいけるな』という感触があったのですけど、でも、この感触では雨や決勝のロングランは厳しいと思っていました。そのあたり、決勝に向けてセットアップを直せなかったというのがあります。ファーストスティントの(福住)仁嶺も(6周目からの)セーフティカーが入る直前にオーバーステアがヤバいと言っていて、セーフティカーが入ったのでなんとか順位は保って帰って来れた状況でした」
ファーストスティントで5番手を走行していた8号車ARTAは20周目にピットインして福住から野尻に乗り代わった。福住からの無線で状況は理解していたが、野尻の後半スティントは予想を越えて呆れてしまうほど、厳しい状況になってしまった。
「後半スティントはSCもFCYもなかったのでタイヤが冷えるタイミングもなかったですし、集団のなかに入るとさらにダウンフォースがなくなって、ちょっと、どうしようもなかったかなと。とにかくグリップがなくてオーバーステアがひどい。タイヤの選択の問題とかではなくて、セットアップも含めて……ホント、どうしてなんですかね。本当に僕も今回、レースできるスピードではなくて、何もできなかったので反省すべき点があると思っています」
サクセスウエイトでは1号車STANLEYより38kg、17号車Astemoよりも26kg軽くて有利な状態なはずだが、そのアドバンテージが活きることなく、8号車ARTAは決勝でペースを上げることができなかった。
FR化したNSXでは現在、同じブリヂストンユーザーのなかでもセットアップの方向が3台とも別々の方向に進んでいると言われ、タイヤの細かい仕様もドライバーの好みやエンジニアのセットアップに合わせて違ってきているという。さらに、近年のレースでは予選用のセットアップと決勝用のセットアップを分けて考える方向で、土曜日と日曜日のクルマが違ってきていると言われている。
今回のニッサンGT-Rの表彰台独占のように、コースとマシンの相性、そして4位に入ったSW64kgの1号車STANLEY、予選12番手からSW52kgで5位まで順位を上げた36号車au TOM’S LC500など、セットアップとタイヤのマッチングがSWのディスアドバンテージを凌駕してくる展開がここ数戦、見受けられる。
もはや、現代GT500クラスはこれまでのウエイトでパフォーマンスのほとんどが決まるようなシンプルな構図から、コースと車両の相性、タイヤメーカーの相性、セットアップの出来……etcがこれまで以上に複雑に絡み合った新時代に入りつつあるのかもしれない。