更新日: 2018.06.26 16:12
現役最年長ロッシの活躍は電子制御のおかげ?/ノブ青木の知って得するMotoGP
イン側に大きく体を落としてコーナリングする、MotoGPライダーたち。一見派手にアクションしているようだが、実はかなり静的な世界に彼らはいる。少しでも無駄な挙動を防ぐために、ものすごく繊細にマシンコントロールしているのだ。例えるなら、静止しているバランスボールの上で、自分の体を静止させているようなもの。……と言えば、そのキツさ、困難さが想像できるだろうか?
人も、バランスボール=MotoGPマシンも、本来はお互い常に動き合いながらバランスを取るものだ。バイクレースで言えば、「暴れるマシンをねじ伏せる」といった昔ながらのスタイルは(それはそれで大変だけど)、まだ自然の摂理に適っている。人もバイクも動きまくりながらのバランス取りだからだ。
だが、双方の動きを極端に減らし、なおかつ精密にバランスを取るのは至難の業。バランスボールの上で完全に静止して瞑想している図をイメージしてもらえば……、ご想像の通り、体幹からしっかりと鍛え上げなければならない。それをロッシ(38歳)は見事にこなしているのだ。
日頃から筋トレを欠かさず、週に2、3回はダートでのバイクトレーニングを続けているというロッシ。陽気なイタリアンのように見えて、影では信じられないほどの努力をしている。しかも、相変わらずのレース強さ。序盤は抑え、後半にペースを上げるロッシパターンも健在で、「もしかしたら今年、チャンピオン獲っちゃうんじゃないの?」という期待感もある。
が、しかし! 若手の台頭も著しい。今年、タイトル争いに間違いなく絡んでくるマーベリック・ビニャーレスは22歳、そして昨年の覇者マルク・マルケスは24歳だ。
彼らが発揮している「若さ任せ」の勢いは、やはり圧巻だ。体幹を駆使する必要があるだけに、若さは強力な武器なのだ。特にマルケスは、静的であるはずのMotoGPライディングの常識を覆し、マシンの上でアグレッシブに体を使っている。なおかつタイムロスになるような無駄な挙動は出さないのだから、いやはや、その身体能力の高さはズバ抜けている。
1996年、17歳で世界GPにデビューしたロッシは、まさにアイドル的な存在として多くのファンを魅了した。それが今や押しも押されぬ大ベテランである。17歳でおにゃん子クラブの一員となり人気を博した城ノ内早苗が、48歳の今も演歌歌手として活躍しているようなもの(若い人にはわからないか?)。最近MotoGPを観始めたファンの中には、ロッシのことをよく知らない人も増えつつあると聞くが、そりゃそうだろうな、と思う。
ここはひとつロッシには『中年期待の星』として、若手を押さえつける踏ん張りを見せてほしい。そして、中年を撥ね除ける若手の活躍にも大いに期待したい。ベテランと若者のしのぎ合いは、スポーツ盛り上げ要素のひとつだからね!
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■青木宣篤
1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。