更新日: 2018.08.23 21:55
MotoGPは「戦略よりも全力」。事前の作戦は意味をなさず/ノブ青木の知って得するMotoGP
「臨機応変」は、それなりに大事だ。自分の前を走るライダーのタイヤの状況を見て、挙動が大きければ抜くのをあえて少し待つ。もっとタイヤが摩耗してから一気に抜けば、追いすがって来られないだろう。
また、相手と自分の得意・不得意なコーナーを見極めることもある。でも、これらもいざレースが始まってみないと分からないことだから、事前に考えてもしかたがない。
唯一の例外は、バレンティーノ・ロッシだった。レース前、彼の頭の中にはたぶん10通りぐらいのプランがあって、「今日はこれで行こう」と決め、それを実行していたように思う。でも、ご注目いただきたいのは「ロッシだった」と過去形だってこと。今となってはロッシもプランを立てている余裕もない。
というのは、ロッシが戦略を立てられたのはマシンやタイヤにアドバンテージがあった時なのだ。
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例えばロッシが得意としていた「序盤はライバルを先行させて、後半になって追い上げる」といった展開は、当然、後半になって追い上げられるだけの優位なマシン/タイヤによる余力があったからこそ可能だった。そうでなければ、先行されてそれっきりサヨウナラ、だ。
マシンやタイヤにアドバンテージを作れたのもロッシのスゴさだったわけだが、今やタイヤがワンメイク化され、ECUも共通化……。だからさすがのロッシと言えども、「戦略よりも、全力で」なのだ。
まぁ、全力の走りを39歳(!)の今も、自分よりひとまわり以上若いライダーたちを相手にやってのけているのだから、ある意味、彼が若い時よりもスゴいかも……。
マルク・マルケスの強さのヒミツは、ココにある。彼は戦略なんてまったく考えていないタイプだ(と思われる)が、それでも勝ててしまうのは圧倒的身体能力というアドバンテージがあるからだ。その余力を武器に、レース中のライバルの動向を見渡し、結果的に戦略立てに近いことができている。

だがしかし。オーストリアGPでは、そのマルケスをロレンソが打ち破った。終盤、ロレンソのタイヤは終わっていた。その背後にぴたりとつけたマルケスには、身体能力というアドバンテージがあった。
マルケスとしては、ロレンソの前に出たら一気に突き放せるという目論見だっただろう。だがロレンソは、マルケスの予想を上回る鬼気迫る走りを見せた。決してバトルが得意なタイプじゃないのに、マルケスのインをズバリと突き、思わず引かせたロレンソ。「戦略よりも、全力で」。今のMotoGPらしい、象徴的なシーンだった。
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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。