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投稿日: 2018.09.19 20:32
更新日: 2018.09.19 21:33

MotoGPコラム:不調のヤマハが2019年からV4エンジンへ移行か。技術規則から見た直列エンジンの弱点


MotoGP | MotoGPコラム:不調のヤマハが2019年からV4エンジンへ移行か。技術規則から見た直列エンジンの弱点

 しかしインライン4エンジンは幅が広い。現在のMotoGPの技術規則を特に考慮すると、その点がおそらく最大の弱点になる。

 インライン4の長いクランクシャフトのせいでバイクは曲がりにくくなるはずだが、ヤマハとスズキはミドルシリンダー周辺のクランクの中心に重心を集中させることで、この問題を解決している。

 現在の問題は、MotoGPのコントロールソフトウェアとミシュランタイヤのせいで、ブレーキの安定性とグリップ、コーナリングおよびトラクションを見出すことがこれまで以上に難しくなっていることだ。

 2016年に技術レギュレーションが改定されて以来、ヤマハの実績が思わしくないのはそれが理由だろうか? 2015年はハイテクのファクトリーソフトウェアとブリヂストンタイヤが使用された最後の年だが、ヤマハは11戦で優勝している。それ以降の2シーズン半で、ヤマハは10戦で優勝している。

 2017年シーズン中盤以来、ロッシとマーベリック・ビニャーレスは、YZR-M1が優勝できないのはあるひとつのパフォーマンス要因のせいだとしてきた。それはソフトウェアのセットアップだ。

 しかし、先月の第9戦オーストリアGPで大きく離されて6位でフィニッシュしたロッシは、エンジン自体が原因なのではないかと初めて思ったのだ。

 次のラウンドは違っていた。第10戦イギリスGPのフリー走行でロッシとビニャーレスはふたりとも非常に速かった。なぜならシルバーストンはハンドリングトラックであり、レッドブルリンクやミサノのようなストップ・アンド・ゴーを繰り返すコースではないからだ。そうしたコースにおいては、低速コーナーを抜ける際にエンジンと電子系がパワーを大幅に落としてしまうことが影響する。

 なぜ現行の技術規則はすべてを変えてしまったのか? 多くの理由があるが、特にこのケースでは、クランクマス(回転質量)と慣性の重要性を考えるべきだ。

 ブレーキの安定性、グリップ、コーナリング、トラクションを高めるためには、クランクマスと慣性を適正にすることが不可欠だ。

 クランクがより重ければ、トラクションも高まる。なぜならエンジンの点火パルスが弱まるからだ。だがバイクは曲がりにくくなる。クランクは毎分1万6,000回転しており、バイクは曲がるのではなく直進しようとするからだ。

 クランクがより軽くなると、バイクは曲がりやすくなり、ブレーキの挙動も良くなるが、コーナー終わりでのトラクションが不足する。

 過去4シーズン以上、三大マニュファクチャラーはクランクマスと慣性を適正に保てていない。

2015年シーズンはエンジン仕様を変更したホンダが苦しむ結果に。
2015年シーズンはエンジン仕様を変更したホンダが苦しむ結果に。

 2015年、ホンダはRC213Vのクランクシャフトを軽くしすぎていた。おそらくストレートでのスピードを追求してのことだったのだろうが、エンジンの回転数が急速に上がりすぎ、ホイールスピンを起こした。またスロットルを閉じると急激にシャットダウンし、コーナーエントリーで滑りやすくなった。より優れたクランクシャフトがあれば、マルク・マルケスはタイトルを獲得できたかもしれない。(そして苦労もだいぶ減ったことだろう!)

 現在ヤマハも同様の苦境にある。エンジンが急速に回転しすぎ、トラクションと、その結果として加速の問題を起こしているのだ。

■エンジン仕様凍結の規則はレースを悪くするか

 スズキも2016年と2017年に同様の問題を抱えていた。2016年にビニャーレスはスズキGSX-RRでイギリスGPを制したが、クランクシャフトがやや軽すぎ、タイトなレーストラックで頻繁にスピンを起こしていた。

 昨年、スズキはより重いクランクシャフトを作ったが、そのためバイクはブレーキングが不安定になり、曲がりにくくなった。スズキのファクトリーチームがシーズン中のテストでアンドレア・イアンノーネに2016年型エンジンをテストさせたとき、イアンノーネはこれはやめた方がいいとその場ですぐに彼らに言った。

アンドレア・イアンノーネ/チーム・スズキ・エクスター
アンドレア・イアンノーネ/チーム・スズキ・エクスター

 スズキは、昨年は技術的優遇措置の対象外であったため、2016年型エンジンに戻すことができなかった。なぜならホンダやドゥカティ、ヤマハと同様に、シーズン序盤の段階で、ドライバーひとりあたり7基のエンジンの開発が封印されていたからだ。

 重要なのは以下のようなことだ。過去数シーズンの間、ドルナはMotoGPでよりエキサイティングな接戦が行われるよう、懸命な取り組みを行ってきた。改定された技術レギュレーションは大きな効果をあげ、ブルノでのトップ10間の差と、アッセンでのトップ15間の差は、グランプリレースの70年の歴史上、最も小さいものになった。

 しかし、ドルナによるエンジン開発を封印するというレギュレーションは、レースをさらに改善させるために、変更される可能性はないのだろうか? 大手マニュラクチャラーがカタールですべてのエンジン開発を封印する現行のシステムは、ファクトリーチームがシーズン全体にわたってチャンピオンシップを賭けた戦いができなくなる可能性がある。

 昨年はスズキがそうであり、今年はヤマハだ。これはレースにとって良いことではく、それはファンにとっても、ドルナにとっても、チームとチームのスポンサーにとっても良いことではない。

 現在、それぞれのライダーはあらかじめ確定された7基のエンジンを19戦のシーズン全体で使用できる。一方で技術的優遇措置の対象となるランク下のファクトリーチームは、シーズン中もエンジン開発を継続でき、9基のエンジンを使用できる。ドルナは、大手ファクトリーチームにシーズン中に1回のエンジンアップグレードを許可することで、レースをさらに改善させることはできないだろうか?

「私としては、トップのファクトリーにおいてライダーひとりあたり7基のエンジンに制限されていることは、十分であると考えている」とスズキのチームマネージャーを務めるダビデ・ブリビオは述べている。


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