2014年モナコGP、可夢偉vsビアンキがもたらした運命の分かれ道【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】
先頭集団の争いはニコ・ロズベルグ(メルセデス)がルイス・ハミルトン(メルセデス)を制して優勝を飾った。負けたハミルトンは「何かが目に入りよく周りを見ることができなかった」と不満を言っていた。
ハミルトンは記者会見で私のデスクの前を通り過ぎるとき、目をこすってみせたが、目に入ったゴミがどれだけの違いを生み出したのか判断するのは難しい。だが、この日はロズベルグがハミルトンに対して納得の勝利を収めた数少ない1日だということだけは確かだった。
マルシャが喜ぶ一方で、ケータハムの状況はまったく違っていた。レース後に可夢偉のグループインタビューセッションに行ったが、彼ははっきりとビアンキについて不満を露わにした。
可夢偉はビアンキがシケインで2回以上接触してディフューザーを壊し、そのせいでパフォーマンスに大きな影響が出たと主張した。そしてラスカスでの接触で可夢偉のマシンは大きなダメージを受け、最終的にドライブ不能な状態になったと続けた。
ビアンキがケータハムのマシンにダメージを与えていなかったら、可夢偉もポイント圏内でフィニッシュできたのは確かだっただろう。
モナコに夜の帳が下りると、私はいつものように仕事を切り上げて、パドックの横にあるパブ『Stars and Bars』へ行った。毎年、他のジャーナリストたちとそこで夕食をとりながらインディ500を観戦しつつ、私たちが見たレースについて議論する。

私はレース後にハミルトンがロズベルグと言葉を交わしていないことに気づいていたが、これが2016年末まで続く対立関係のスタートであり、ロズベルグは世界タイトルを獲得した後にF1を引退することになるとは、このときの私たちには知る由もなかった。
もうひとつ当時の私たちが知らなかったことは、このモナコGPが最終的にケータハムF1チームを崩壊させることになるレースであり、それを目撃していたということだ。
マルシャもケータハムも生き残るためにはチャンピオンシップでトップ10内でフィニッシュする必要があった。モナコでの結果が意味するところは、ケータハムが生き残るためには、ザウバーに対してポイント圏内でフィニッシュすることだった。
レースが終わった翌朝、ケータハムチームのオーナーのトニー・フェルナンデスは、このあとのレースでチームがポイントを獲得するチャンスがほとんどないことを分かっていたためにチームを売りに出した。


もしもあのときビアンキが可夢偉のマシンにダメージを与えていなかったら、ザウバーが財政トラブルに陥る可能性が高かった。そして、ケータハムがあの日モナコでポイントを得ていたら、彼らは今もグリッドに残っていたかもしれない。
あの日ビアンキが獲得したポイントはマルシャがチャンピオンシップを9位でフィニッシュするのに役に立った。分配金を得たことで、マノー・マルシャはF1に2016年末前まで生き残ることができたのである。
このレースはF1の歴史にとって極めて重要なものだったことが証明された。だが残念なことに決め手となった可夢偉とビアンキのバトルはラスカスでの決定的な動きだけが放映され、テレビでその全容は放映されていない。
だが、あの戦いの一部始終は私のなかで素晴らしい思い出として残っている。
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サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。