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投稿日: 2022.07.07 23:25
更新日: 2022.07.07 23:37

【中野信治のF1分析/第10戦】今季一番のレース。我慢と潔さで流れを呼び込んだサインツと焦りが見えたルクレール


F1 | 【中野信治のF1分析/第10戦】今季一番のレース。我慢と潔さで流れを呼び込んだサインツと焦りが見えたルクレール

 トップ争いはフェルスタッペンが脱落してしまい、フェラーリ2台の後ろにルイス・ハミルトン(メルセデス)が追いつくという展開になりました。そして1回目のピットイン後、トップのサインツが2番手のルクレールを前に出しました。ルクレールは無線でチームに対してトップを譲るようプレッシャーをかけ続けていましたが、チームも状況は分かっているはずなので、そこまでプレッシャーかけるのはどうなのかなと思いました。

 そのあたりの無線で見えるルクレールの焦りといいますか、言い方として正しいかわかりませんが『オレの方が速いんだからオレの方が上だろ』という若干の上から目線を感じましたね。再スタート後の1周目にセルジオ・ペレス(レッドブル)をターン4でオーバーテイクしにいくときにも少し接触がありましたし、強引だったと思います。結果としてエンドプレートの破損で済みましたが、ルクレールに若干の焦りを感じました。

 対するサインツはとにかく自分のやるべきことをこなして、チームとしても前半はサインツにチャンスをあげたいという気持ちが見えました。フェラーリはまずはフリーでサインツを戦わせている印象があり、サインツにペースがなければ入れ替えるということでした。そして順位を入れ替える手前のところでも、サインツが『もう1周行かせてくれ』と無線で言って、もう1周走ってみてチームがターゲットとしているタイムを出せなかったら入れ替えるということを素直に受け入れ、サインツはそのターゲットタイムに届かなかったのでルクレールと順位を入れ替えることを決めました。

 そのサインツの判断は潔かったですね。そして無線の内容や返事、会話の仕方もカッコよかった。本当に歯切れが良く、もう自分でやるべきことしてダメだったから譲ったわけですけど、サインツにすごく綺麗ないい流れを感じました。ルクレールもここ数戦トラブルやアクシデントなどいろいろなことがあり、ストレスを感じて焦った感じになってしまうのは仕方ないですけど、そういうときだからこそ、さらに上に行くための何かが必要なのかなというのを感じたレースでもありました。

 順位を入れ替えて2番手になったサインツですが、レース終盤に本当に千載一遇のチャンスといいますか、エステバン・オコン(アルピーヌ)のストップでセーフティカー導入というタイミングが訪れました。もう最高のタイミングでしたね。フェラーリはトップのルクレールをピットに入れなかったのか、それともタイミング的にルクレールが入れなかったのか分かりませんが、ルクレースはステイアウトして、2番手のサインツがピットに入りました。

 ルクレールとサインツにはそこまで大きなギャップはなく、2〜3秒差だったと思うので、ルクレール(ハードタイヤ)はトップだったから少しのリスクも負いたくないというところでそのまま行かせたのか、ルクレールをピットに入れたときにハミルトンがステイアウトしたらまずいということを考えたのだと思います(後のフェラーリチーム代表のコメントで戦略として後ろのハミルトンを警戒してルクレールをピットインさせなかったことが判明)。

 ただ、冷静に考えれば残り周回数と燃料残量を考えると、ソフトタイヤが速いのはほぼ明白だと思います。ですので、普通に考えればあれはピットに入れるタイミングだった思います。そして結果的に、残り10周で使い古したハードタイヤでトップを走るルクレール、新品のソフトタイヤを装着した2番手のサインツと3番手ハミルトン、そしてセルジオ・ペレス(レッドブル)が並んでレースが再開されましたが、最後の10周のスプリントバトルは本当に抜きつ抜かれつの面白いレースになりました。

 若干やりすぎかなと思える激しいバトルや、相手をアウト側に放り出していく感じはちょっとどうなのかなというシーンも見られましたが、その部分を外に置いて見ると、あのバトルは本当にF1ドライバーならではのギリギリのドライビングでした。コース幅が広いシルバーストンでさまざまなライン取りを見せながら、本当にこういったバトルを見ることができると多くの人の心を掴むことができると思いますし、今年レギュレーションを変更して接近戦を増やしたいというFIAの狙いが、高速コーナーが多いシルバーストンでピタッとはまった内容でもありました。

 ハードタイヤでステイアウトしてディフェンスするルクレールも本当に素晴らしかったです。今シーズンはトラブルもあり、チャンピオンシップ争いでも厳しい状態にはなってきていますけど、ドライバーの能力という部分ではルクレールはやはりチャンピオンを争える、未来のチャンピオン候補のひとりであることは間違いないということを存分に見せてくれた走りでした。

 そして最終的にはサインツが見事、F1参戦150戦目で初優勝を果たしました。これだけ長く優勝まで時間が経ってしまうと『俺は勝てるんだろうか』と自分のことを信じることが難しくなったと思います。特に今シーズンは新しいレギュレーションのクルマが自分のドライビングスタイルに合っていなかったと思うので、サインツはその部分ですごく苦しんでました。そのなかでチームメイトのルクレールがスピードを見せ、サインツ自身も前半戦は焦りも生じてミスも多く、自信を失いかけたタイミングもあったと思います。

 そのなかで2戦くらい前から流れを少しずつ自分の方に持ってきて、我慢をしていたと思いますが、そこが本当にサインツのメンタルの強さだと思います。僕もドライバーとしていろいろなカテゴリーで初優勝のうれしさや難しさは実感してきましたが、サインツ自身もいろいろな思いがあったと思います。『諦めちゃダメ』『信じ続けることの大事さや尊さ』など、今回の初優勝でいろいろなものを自分自身で感じだと思いますし、周りで見ている人たちもそれを感じることができたと思います。これまでサインツを見てきた僕としても、ウルッとまではいきませんけど、今回の勝利に関しては本当にすごくグッと心に来るものがありました。

2022年F1第10戦イギリスGP カルロス・サインツ(フェラーリ)の初優勝を祝うチーム
2022年F1第10戦イギリスGP カルロス・サインツ(フェラーリ)の初優勝を祝うチーム

 今回のイギリスGPは何よりアクシデントに巻き込まれたドライバーたちが無事だったということが、本当にすごく良いニュースでしたし、最後の最後まで結末が分からないという部分では予選と決勝ともに今年一番のレースだったと思っています。今後は、メルセデスも含めた3強が詰まった感じになり、次戦のオーストリアは路面のサーフェスも綺麗で、おそらく車高も下げていけるのでメルセデスのクルマが速さを発揮してくるでしょう。フェラーリももちろん速いと思いますし、レッドブルも得意としているサーキットでもありますので、次のオーストリアGPはファンにとってたまらないレースがまた見られるのではないかなと期待しています。

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<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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