更新日: 2020.07.01 17:28
初NASCARで驚いたアメリカ流の取材法。記憶に残る“F1は妥協したバレエ”のたとえ【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】
私はCoTがNASCARにもたらした影響についてインタビューをしようとしていたのだが、NASCARの取材には私が慣れ親しんでいたF1の取材とはまったく違う“流儀”が必要だった。
当初、私はインタビューのアポイントを取るために、どのプレス担当者にアプローチするべきなのかと数時間ほど頭を悩ませた。しかし、この問題はGM(ゼネラル・モータース)のNASCARエンジニアリング責任者が「ここでは物事の進め方が違う」と説明してくれたことで簡単に解決した。
NASCARでは広報担当者がインタビュー時間を設定するまで待つ必要はなく、ただ正しい“ホーラ”(アメリカのチームはトラックのことを“ホーラ”と呼ぶ。イギリスでは使わない単語だ)を見つけて、会いたい人を訪ねるだけでよかったのだ。
このやり方をF1に置き換えると、レッドブル・レーシングのガレージにいきなり飛び込んでいってエイドリアン・ニューウェイを呼び出すようなもの。失礼な方法ではないかと思ったが、実際に試したところ、うまくいった。誰もが喜んでインタビューに応じてくれた。
雪の影響でほとんどのドライバーやスタッフは特にすることもなく座っているだけだったので、私はNASCAR界の重要人物全員に会うことができた。さらにレースウイーク明けの月曜日と火曜日には、多くのチームからファクトリーへ来ないかという誘いも受けた。
私は実りあるインタビューを多く行うことができ、このインタビューを基に執筆した記事は数カ月後に創刊された雑誌の主力記事になった。インタビューをこなしている時は気が付かなかったが、あのときの私はNASCAR雑誌の記者だったのだ。
仕事を終えた私は、時差ボケの影響もあってひどく疲れていた。そこでは私はネイションワイドシリーズ(現在のエクスフィニティシリーズ)のレースをホテルのテレビで見ようと思った。
ただ私が滞在していたホテルにはNASCARスプリントカップ(現在のNASCARカップシリーズ)に参戦しているチームのエンジニアたちも泊まっていたので、ホテルの部屋ではなく、彼らと一緒にホテルのバーでレースを見ることになった。
このとき、私はオーバルでのレースについて、エンジニアたちから多くのレクチャーを受けた。そのとき一緒にレースを観戦していたエンジニアがF1マシンとNASCARのセットアップを比較して「F1は妥協したバレエのようなもの。でもNASCARは純粋なエンジニアリングだ」と表現をしたことを覚えている。
オーバルレースの場合、マシンは左にしか曲がらない。そのためエンジニアはマシンを左コーナーに最適化できる。しかし、オーバル以外のサーキットレースでは、マシンは左にも右にも曲がるし、加速や減速を終始繰り返すことになる。そのためセットアップが“妥協したバレエ”のようになると表現したのだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
サム・コリンズ(Sam Collins)
F1のほかWEC世界耐久選手権、GTカーレース、学生フォーミュラなど、幅広いジャンルをカバーするイギリス出身のモータースポーツジャーナリスト。スーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権の情報にも精通しており、英語圏向け放送の解説を務めることも。近年はジャーナリストを務めるかたわら、政界にも進出している。