更新日: 2021.08.30 12:33
A1グランプリは後のさまざまレースに影響を与えたコンセプトの先駆者【サム・コリンズの忘れられない1戦】
スプリントレースにはそれほど大きな展開はなかった。ブランズ・ハッチは幅の狭いコースで、リスクを取らずにオーバーテイクをするのは難しい。さらに、スプリントレースの後に控えているフィーチャーレースの開始まではあまり時間もなく、スペアカーもないため、ドライバーたちは誰もリスクを冒したくないように見えた。
その結果、ポールスタートのピケJr.は余裕でチーム・フランスを下して優勝。観客から注目を浴びていた元イギリスF3選手権チャンピオンのカーがドライブするチーム・グレートブリテンは5位でフィニッシュして大きな歓声が上がった。チーム・ジャパンの福田はポイント圏外の12位でレースを終えた。
メインのレースはもう少しエキサイティングだったと言えるだろう。ピケJr.がふたたびポールポジションから首位に立ったが、今回はスタンディングスタートだった。グリーンフラッグが振られ、スタートシグナルが消えたがチーム・ニュージーランドはエンジンがかからず、チーム・グレート・ブリテンが順位を上げた。また、チーム・フランスのプレマがストールしたため、チーム・グレート・ブリテンは第1コーナーに差し掛かる前に3位に順位を上げていた。
スタート直後は混乱する展開となった。1周目はチーム・アイルランドがチーム・スイスに衝突し、2台ともリタイア。チーム・レバノンは経験の浅いドライバーがグランプリ・ループでスピンを喫して、あやうく他の4台のマシンを巻き込むところだった。チーム・インドとチーム・インドネシアも最初の1周を完走できず。2周目にはチーム・ポルトガルが、ローラのバッテリーのトラブルによってリタイアを余儀なくされた。スプリントレースで見られたドライバーたちの慎重なアプローチは明らかに消え去っていた。
コース上はすでにマシンが激減していたが、先頭集団で素晴らしいバトルが繰り広げられていたので、そのことはあまり関係なかった。チーム・グレード・ブリテンのカーは、チーム・オーストラリアと激しく戦っていた。ピケJr.は後ろで2台のマシンが争うなか、リードを広げていく。
すごいバトルがすぐ下のコースで行われており、私の友人は前の列にいる女性に「これは素晴らしいモーターレースですよ」と話した。私もその意見に同意だ。
レースの13周目、パドック・ヒルでは大きなドラマが起きた。チーム・レバノンの経験の浅いドライバーであるベシールが、チーム・イタリアのマシンと衝突し、グラベルトラップで派手に反転したのだ。このとき私は別の方向を見ていたので見逃してしまった。群衆の反応から何かが起きたと気づいたくらいだ。ベシールに怪我はなく、彼はリタイアした。またチーム・イタリアも同様にリタイアとなった。
このクラッシュによってセーフティカーが出動し、トップの3台にピットストップのチャンスが巡ってきた。チーム・グレート・ブリテンのメカニックは素早く作業をしたが、チーム・ブラジルとチーム・オーストラリアのメカニックたちは残念ながら作業が遅かった。
カーが首位に立つと、大きな歓声が沸いた。ブランズ・ハッチで1976年にジェームス・ハントがニキ・ラウダを追い抜いた時以来の大歓声だったかもしれない。イギリス人ドライバーが、イギリスのエンジンを積んだイギリスのマシンで、ブランズ・ハッチでのグランプリの首位にいる。まるでおとぎ話のようだ。
だかその喜びも束の間、ピットアウトしてからわずか1周後、まだセーフティカーの後ろを走っていたカーのマシンは突如、コース脇で停止してしまった。バッテリーのトラブルだった。観客たちが落胆の声を上げるなか、カーはリタイアとなってしまった。
その後、レースは再開され、チーム・オーストラリアが首位に立ったが、チーム・ロシアがスピンを喫したためにセーフティカーが再度出動。再スタートが切られるとピケJr.が首位を奪い、スプリントレースに続いて優勝を飾った。55分間のレースをフィニッシュできたマシンはたった9台だった。ピケJr.と同じ周回にいた福田は8位でフィニッシュし、日本にとって初のA1GPのポイントを獲得した。