ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2021.08.27 21:00
更新日: 2021.08.27 21:12

悲願達成の小林可夢偉が語る感謝と、葛藤の最終スティント。芽生えた一貴への“リスペクト”/ル・マン24時間


ル・マン/WEC | 悲願達成の小林可夢偉が語る感謝と、葛藤の最終スティント。芽生えた一貴への“リスペクト”/ル・マン24時間

 時系列は前後するが、8号車に先に起きた燃料系統のトラブルが7号車にも生じ始めたときは、可夢偉がステアリングを握っていた。「8号車にその傾向があるというのは聞いていたので、心の準備はしていました」と可夢偉は振り返る。

「ただ、思ったよりも早くそれがきてしまったなと。ただ、8号車の方が後ろを走っていたことと、彼らの方が状況がクリティカルだったということで、まずは8号車で延命措置を試してくれ、それが使えそうだから7号車でも、とやってくれたんです」

「僕は無線で(その対処法を)理解できてはいたんですけど、ここで中途半端な聞き間違いで伝わらなかったらいけない、そのリスクを背負うところではないということで、ホセがやり方をマスターしてから乗り込む、といういい判断をしてくれました」

 また、その対処法を編み出した過程について、「僕、これだけは伝えたいというのがあるんです」と可夢偉は秘話を明かしてくれた。

「今回、この燃料系の問題の延命措置を見つけてくれたふたり(のエンジニア)がいるんですけども、そのうちひとりがじつは夜中に血圧が上がって、いったんメディカルセンターに運ばれているんです」

「4時間くらい休んで戻ってきたら、今度は燃料ポンプのトラブルだっていうので、体調が悪いなかでも一生懸命、解決策を見つけてくれて。そのおかげで、2台ともガレージに入ることなく、完走につながった。本当にチームのひとりひとりが、何が何でもゴールに持っていくんだという気持ちがあることがありがたいし、すごい情熱のあるチームなんです」

「もちろん“ワークス”ではあるんですけど、やっぱり人間がやっているものなので、そういう情熱はすごく大事だと思うんですよ。そういう人たちが裏にいたっていうのは忘れられないことだし、そのおかげでゴールできたことに感謝したいです」

2021年のル・マン24時間レースを制したトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)
2021年のル・マン24時間レースを制したトヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)

 シーズンは残り2レース、可夢偉としてはもちろん「しっかり勝って、7号車として2年連続のタイトルを取ることが僕らの目標」と語る。

 そのさらに先の目標設定については、「すごく難しい。ちょっと時間をかけながら、やっていっています」と可夢偉。

「一度勝って終わりではなく、挑戦し続けて、まだまだル・マンで何か歴史を刻めたらいいなと思うし、あと1回でジャッキー・イクスさんのポールポジション記録に並ぶので、そこもチャレンジしたいなと個人的には思っています」

 コロナ禍の渡航制限/隔離措置によりフル参戦ができていない全日本スーパーフォーミュラ選手権についても、「来年も出られる限りは、やりたい」と意欲を見せる。そしてもうひとつ、さらなる未来を見据えた発言も飛び出した。

「富士のスーパー耐久で水素カー(ORC ROOKIE Corolla H2 concept)に乗らせていただいたんですけど、僕は水素の車に対してすごい可能性を感じていて。もっといろんな人に水素が理解されて、もっと発展できるようにやっていきたい」

「いつかは僕は、水素でル・マン24時間を走るような時代になればいいと思っているし、あわよくば僕がなんとか乗れる年齢で、一回でもそんなクルマ(をル・マンで)で乗ってみたいなっていうのが本音です」

■燃料タンクの解体・検証はこれから

 なお、同日に行なわれた村田久武チーム代表のリモート会見では、燃料系のトラブルの詳細も一部明らかになっている。

 GR010がドイツ・ケルンのTGR-Eに戻るのを見届けてからすぐ帰国したという村田代表は、「まだガスバッグの中を開けて見ることができたわけではないので」と前置きし、現時点で判明している事象とそこから推測できることについて、以下のように述べている。

「燃料ポンプは動いていて、おそらくはその入り口であるフィルターが詰まっているだろうと想像している、というところです」

「横Gがかかると燃料が片寄るので燃料タンクの中には何個か燃料ポンプがある。それらによってコレクター(タンク)に燃料を入れ、そこからまた吸っています。それらのポンプの吸い口に付いている、フィルターが詰まっているのではないか、ということです」

 また、エンジニア陣が導き出した“解決法”により、ドライバーに求められた『特別な操作』については、村田氏は次のように説明した。

「まだこちらも正確なレポートが上がってきているわけではありませんが、(ドライバーが)やったのは燃料ポンプのオン・オフ、ブレーキの踏み方(を変える)、あとはコーナーのなかでも、それぞれのコーナーに合わせていろいろなことやりました。燃圧の落ち方がひどくなっていったので、その状況に応じて新たな手を追加していった、というのが総論です」と述べている。

 この“解決法”を見出した過程など、村田代表の会見内容については、改めて別の記事でもお伝えする予定だ。

ドイツ・ケルンのTGR-Eへと凱旋したル・マン優勝車両、7号車GR010ハイブリッド
ドイツ・ケルンのTGR-Eへと凱旋したル・マン優勝車両、7号車GR010ハイブリッド


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