更新日: 2024.11.27 18:47
【GT300マシンフォーカス】実質“別モノ”級のモディファイが施されたmuta GR86。そのハイレベルなエアロと走行環境
こうした2024年型muta GR86の精度の高いセットアップを支えるもうひとつの根幹にフロアの改良も貢献しており、昨季から今季に掛けてシートレールに対するFIA国際自動車連盟の規定変更があり、締結強化のためGTA-GT300規定モデルは軒並み刷新を要したという。
フラットボトムでもっとも重要な基準面でもあるだけに「作り直すのであれば、もっと精度が高くなるように、より工夫をして製作しています。もう如実に違います」というほどの効果が出たという。これが最終的には、ダウンフォースの多寡など数値上で「風洞どおりの数値が出ているのかどうか」などの話にも繋がっていく。
「大きく重いエンジンがフロントにある以上、静的な重量配分は大体どのくらいかという想像はまず行うことができます。そうなったときにエアロバランスをどのあたりに持ってくるか、というテーマが立ちます。そこで初めて数字が出てきて、それを風洞上で実験し、実車に落とし込む……というのが2024年仕様の空力コンセプトになります」
昨季2023年型から外観上で分かる変化は、カナード類やミラーステー、フロントフェンダー上のガーニーフラップ形状など「細かなディテールの部分」になるが、そのなかでも最大の変化がリヤウイングとなる。
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言わずと知れたムーンクラフト出身の渡邊エンジニアだけに、古巣とのジョイントで風洞とCFD(数値流体力学)開発をリンクさせ、ダウンフォース獲得はもとより空力効率(L/D、エル・バイ・ディー)の向上に力点を置いた。
「リヤウイングの翼形はねじれた3D形状になりましたが、同じドラッグでも『ダウンフォースが多い』ということを実験していきます。フロントアンダーフロアも変化していますが、これも全体のバランスを取りたいということです。幸い風洞のモデルがあるので、あとはコンセプトさえ伝えればムーンクラフトのエアロダイナミシストに対応してもらっています」
現在ではCFDでモデル開発をして仮想空間上で候補を絞り込み、モデル自体は3Dプリンターですぐに出力という流れも可能になっている。「そこで良さそうなものをピックアップして風洞の実車で確認します。そのため、かなりの数を実験して選りすぐっています」
ちなみにその風洞。開発だけでなく、現在はトップカテゴリー顔負けの活用法にまで威力が及んでいる。
「今年に関しては、例えば富士のレースなどで言うと、土曜日までエアロダイナミシストに待機してもらい『こんな車高で走るとこうなりました』という連絡を行ったり、場合によってはデータだけ送ったりしました。そこで『今こういった状況です』と伝え、その状況を風洞で走らせてもらい『これはこうした方がいいのではないか』というフィードバックをもらいます。あとは事前の……これも今季の富士がそうだったのですが、例えば低ドラッグを目標にしたときの走行中の車体レイク、傾きですね。これを事前に風洞でチェックしておき、実走行でそれを再現して『どうなった』などの話をしていました」
これだけ高い領域で走らせながら「今のGTでいちばん大きな要素はタイヤ。やはりタイヤで1秒は簡単に速くなりますけど、クルマで1秒速くするのはおそらく至難の技」とも語る渡邊エンジニア。「その時期の(12月の)鈴鹿をブリヂストン(BS)ユーザーは走ったことがありません。その部分はBSの場合“ちょっとした違い”ではないのです」という懸案事項も乗り越え、実質最終戦となる12月の鈴鹿戦で季節違いの第3戦の再現──その結果としてのタイトル獲りとなるだろうか。
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