更新日: 2021.07.21 12:12
『先輩、スゴイっす。』STANLEY牧野任祐が驚嘆する山本尚貴の知略。そして王者たるゆえん【第4戦GT500決勝あと読み】
2台の差が0.2秒という僅差になった41周目を終えた時、山本とSTANLEYにとって最初の幸運が訪れる。GT300車両で火災が発生したマシンの撤去のため、FCY(フルコースイエロー)となったのだ。
「ちょっと厳しいなと思っていたところでFCYが入って、80km/hの走行になったことでタイヤの温度、内圧が結構下がってくれた。そこで燃料の余裕もできました」
予期せず訪れた幸運。山本はこの好機を逃さず、最大限利用する。
「FCYが解除されたところでちょっとペースを上げてみたら、相手を少し引き離せた。僕らはタイヤの温度が下がれば相手より速く走れる。稼ぎどころはここしかないなと」
FCY前は1秒以内だった2台の差が、若干離れていく。
「ただ、ここで速く走り過ぎるとまた終盤がしんどくなると思って、ギャップを作りながら彼らのタイヤがタレてくれればなと思っていたら、僕の方のタイヤが先にタレ始めて、そこで彼らにまた追いつかれてしまった」
再び訪れたピンチ。だがここで再び幸運が訪れる。最終コーナーでGT500車両とGT300車両のクラッシュがあり、2度目のFCYとなったのだ。
「追いつかれてマズイなと思っていたら2回目のFCYが入ってくれた。これでまたタイヤと燃料に余裕ができました。こんな恵まれた展開はなかなかないぞと。このチャンスは絶対にモノにしたいと思いました」
1回目のFCY解除の時と同様、タイヤ温度が下がったときのアドバンテージを利用して山本は最後の勝負に出た。
「そこから今週末で一番のプッシュをしました。彼らが気持ち的に諦めるような引き離し方をしたかった。そういったプッシュができたのも、エンジニアの星(学文)さんから逐一無線で状況を教えてもらっていたお陰です。自分のマネジメントがうまくできました」
55周目に0.7秒だった2台の差は、徐々に開いて行き、60周目には3.0秒の差になっていた。そして今季初の優勝をポール・トゥ・ウインで飾り、GT参戦12年目にして初の地元もてぎでの勝利を挙げることになった。
![2021年スーパーGT第4戦もてぎ決勝](https://cdn-image.as-web.jp/2021/07/20185600/asimg_R6_17053_7d60f69dafaa597-660x440.jpg)
「どこかで19号車に抜かれるなとみんなが思っていたのかもしれないですけど、僕は逆でした。火が付いた感じがありました。セッション序盤は19号車に分があって、GT300の処理の仕方とクルマの動かし方ひとつで順位が変わってしまうというリスクは当然、感じていました。でも、そういう時にこそドライバーの真価が問われるし、僕の真骨頂でもある『諦めない』という気持ち、2位になったらそこで甘んじるのではなくて、トップを取り返す気持ちが湧いてきた」
「そういった気持ちにさせてくれたのもいいクルマがあったのと、任祐が食い下がって2番手でも離されずに付いてきたからこそ。チームのみんなに感謝ですね。まさにチーム一丸となった会心の勝利だったと思います」
相手のミスと2度のFCYの幸運があったとはいえ、コンディションや相手の状況を細かく把握した戦略性と的確な状況判断、そして相手が有利な状況でも諦めない強い気持ち……まさにチャンピオンチーム、そして昨年のダブルチャンピオンたるゆえんを感じさせる山本のパフォーマンスに、チームメイトの牧野はただただ、感嘆する。
「同じクルマに乗っていて状況もよくわかっているので、尚貴さんが楽な状況ではないのはわかっていました。僕自身もかなり苦労していたので、その状況で僕よりも多い周回数できっちり要所要所を押さえて走るところとか、もうさすがとしか言いようがないです。本当に、今の僕はいい環境でレースをさせてもらっていると思います」
レース直後のテレビのインタビューでも牧野は「先輩、スゴイっす」と繰り返せば、優勝会見でも「尚貴さんのお陰です」とチームメイトを讃えた。
「もちろん、僕もトップを守りたいという気持ちもありましたし抜かれたのは悔しいですけど、今回は自分のなかのテーマとして無線でも冷静に伝えようと思っていまして、そこはしっかりフィードバックもできたと思っています。(走行中の)尚貴さんの無線がものすごく冷静なんですよね。逆に僕は今まで熱くなりすぎちゃって、わーわー言っちゃうタイプだったので」
昨年スーパーフォーミュラで山本とチームメイトだった福住仁嶺が今季のスーパーフォーミュラで初優勝を飾って躍進中で、スーパーGTでは牧野が山本からレースの帝王学を目の当たりにしてブレイクスルーを迎えようとしている。今回の結果で山本はトップと3ポイント差のランキング2位に浮上した。STANLEY NSX-GTとホンダ陣営の理想的な好循環が生まれている今季、2年連続のタイトル獲得も夢ではなくなってきた。