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投稿日: 2022.09.22 16:54

前例のない挑戦を選んだプジョー9X8。過激な“ウイングレス”コンセプトは「ごく初期の段階で生まれた」


PR | 前例のない挑戦を選んだプジョー9X8。過激な“ウイングレス”コンセプトは「ごく初期の段階で生まれた」

 プジョー・スポールのディレクターを務めるジャン・マルク・フィノー氏は、WEC世界耐久選手権第5戦『富士6時間レース』のイベント期間中に行われたプレス向け説明会で、WEC参戦の意義について次のように説明した。

「私たちはWECを技術の実験室と位置づけている。他のカテゴリーではなくWECを選んだことについては、3つ理由がある」

「ひとつは、ル・マン24時間という世界で最も有名なスポーツイベントがカレンダーに含まれていること。そのル・マン24時間でプジョーは、1992年、1993年、2009年と、3回優勝している。我々の目標は、このDNAを受け継ぐことにある」

「ふたつ目の理由は、新しい技術を開発するため。WECは技術の実験室だと言ったが、WECで走らせている9X8は508プジョー・スポール・エンジニアード(PSE)と同じハイブリッド技術を用いている。レースで試したことを市販車につなげるのがWEC参戦の狙いだ。みっつ目の理由は、マーケティングツールとして活用することだ」

■規則を読み込み『デザインと空力性能の両立』を達成

 プジョー9X8は車両ミッドに2.6リッターV6ツインターボエンジンを搭載し、後輪を駆動する。フロントにはモーターを搭載し、前輪を駆動。エンジンとモーターを同時に駆動した場合は4WDになる。プジョーのモータースポーツ部門であるプジョー・スポールが開発した508 PSE(日本未導入)は、フロントに1.6リッター直4ターボエンジンを搭載し、前輪を駆動。モーターはフロントとリヤに搭載しており、やはり、エンジンとモーターを同時に駆動した際は4WDになるハイパフォーマンスカーだ。

 508 PSEは緑がかった黄色の差し色を配したグレーのボディカラーをコミュニケーションカラーに採用している。プジョーの高性能車であることを象徴するそのボディカラーを9X8は採用した。技術だけでなく見た目のイメージでも、WEC参戦活動と市販車をリンクさせる狙いだ。

2022年のWEC第3戦ル・マン24時間レースで展示されたプジョー9X8とプジョー508 PSE
2022年のWEC第3戦ル・マン24時間レースで展示されたプジョー9X8とプジョー508 PSE

「9X8の設計にあたっては、デザインと技術を融合させることにした」と、フィノー氏は言う。

「通常は空力を最優先とするデザインにするのだが、9X8の場合はデザインと空力を両立させることにした。レギュレーションは厳しく定められており、ダウンフォース(空気の圧力差を利用して車体を路面に押さえつける力)の上限とドラッグ(空気抵抗)の下限が規定されている。その範囲にある限り、自由にデザインできる。我々のエンジニアとデザイナーはレギュレーションを満足させたうえで、リヤウイングのないデザインを採用した」

プジョー・スポールのディレクターを務めるジャン・マルク・フィノー氏
プジョー・スポールのディレクターを務めるジャン・マルク・フィノー氏

 車両開発に関する詳しい話をテクニカルディレクターのオリビエ・ジャンソニー氏に聞いた。

「9X8の設計に着手したのは2020年だ。基本コンセプトを固めた後、ディテールの設計に入った」

「(旧規定である)LMP1をコピー&ペーストしたようなデザインにはしたくなかった。技術的なチャレンジをして、従来とは異なる何かを成し遂げたかったんだ。そこで、レギュレーションをよく読み込み、何ができるか検討することにした」

 その結果、ユニークなリヤウイングレスのデザインが誕生したというわけだ。

 通常、耐久レースを走るプロトタイプ車は、フロアとリヤウイングを用いてダウンフォースを発生させる。フロアの前部にはスプリッターと呼ぶ空力デバイスが備わっており、フォーミュラカーでいうフロントウイングと同じ役割を果たす。空力の前後バランスはスプリッターとリヤウイングで調節するのが常識だが、9X8が属するハイパーカーの規定では、「調整可能な空力デバイスはひとつ」と定めており、スプリッターかリヤウイング、どちらかは固定にしなければならない。

 そこに気づいたプジョー・スポールは、「だったらリヤウイングがなくてもハンディにならないのでは」と考えたわけだ。空力バランスの調整機能はスプリッターに持たせればいいからだ。ただし、リヤウイングがなくても、必要なダウンフォースを発生できることが前提になる。

「リヤウイングレスのコンセプトは、開発のごく初期の段階で生まれた」とジャンソニー氏は話す。

「レギュレーション上それが可能かどうかを確認した後は、ふたつのコンセプトを並行で検討した。従来のLMP1に似たスタイルがひとつ。我々が過去にいくつも見てきた形状と同様だ。もうひとつは、リヤウイングのない過激な案。検討の結果、リヤウイングがなくても規定上限のダウンフォースを確保できることがわかった」

 過去にいくつも見てきたような形状を、プジョーは良しとしなかった。前例のないチャレンジはリスクをともなう。だが、そのリスクを承知で、過激な案を採用することにしたのだ。9X8が見せるパフォーマンスを通じ、技術力をアピールするためだ。

テクニカルディレクターのオリビエ・ジャンソニー氏
テクニカルディレクターのオリビエ・ジャンソニー氏
富士スピードウェイを走る2台のプジョー9X8
富士スピードウェイを走る2台のプジョー9X8

■「早い改善」が証明する実力。今後はラップタイム向上に注力

 デビュー戦となった7月のモンツァ6時間、2戦目となった9月の富士6時間ではともにトラブルに見舞われ、首位に大差をつけられる結果になったプジョー9X8。

 だが、ラップタイムペースは直接のライバルとなるTOYOTA GAZOO RacingのGR010ハイブリッドと互角であり、とくに、コーナーでは優位に立つ場面があることをデータは示している。

「昨年の12月に最初の実走テストを行なったことを考えれば、評価するに値する結果を残していると思う。短い準備期間にもかかわらず、純粋なパフォーマンスの観点で、10年以上の参戦経験があるチームと同等の仕事をしているのだから」

「プジョー・スポールの未来は明るい?」の質問に、ジャンソニー氏は「イエス」と力強く答えた。

「間違いない。私たちがこれだけ早く改善できていることが証明している。それでもまだ改善の余地がたくさん残っていることは承知しているが、速いペースで改善しているのもまた事実だ。今後も、未知のトラブルに直面することになるだろうが、それも織り込み済み。現在は、ラップタイムのペースを最大化するための開発に取り組んでいる」

 プジョー・スポールは持ち前の技術力で、リヤウイングがなくても競合と同等のペースで走れることを証明した。専用に開発したハイブリッドシステムは、デビュー戦から期待通りのパフォーマンスを発揮している。残るは、レースでの安定した走りだ。レースごとにたくましさを増すプジョー・スポールの戦いぶりから目が離せない。
(Text:Kota Sera)

プジョー・トタルエナジーズの93号車プジョー9X8 2022WEC第5戦富士6時間レース
プジョー・トタルエナジーズの93号車プジョー9X8 2022WEC第5戦富士6時間レース

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