更新日: 2019.07.25 22:50
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】開幕仕様に戻して復調気配も2度目の同士討ちに怒り心頭。首脳陣とともに急きょダラーラ社&マラネロへ
僕の経験でこれほど苦労したシーズンといえば、パワーユニット(PU)が導入された2014年です。この年僕たち(当時ロータス)はルノーのPUを使用していましたが、プレシーズンテストは問題だらけでほとんど走れず、開幕戦オーストリアGPではリタイアしました。
第3戦バーレーンGPあたりでなんとか走れるようになったのですが、その後のインシーズンテストなども大変でした。あの当時はロマンのレースエンジニアだったので、僕はチーム全体のことを考えるというよりも、自分の担当するクルマをどうにか走らせることで精一杯でした。ですからロマンのクルマのこと以外は首脳陣に任せていました。
厳しい状況のなかでチーム全体の士気を保つということまで考えてやっていたのは、チーフレースエンジニアになった2015年です。この年はメルセデスのPUを使っていたのでエンジンは良かったけれど、その当時のチームオーナーのやり方が酷かったので、レースに必要な資金がまったくありませんでした。
たとえばハンガリーGPでは、ピレリにお金を払っていなかったので、金曜日のフリー走行1時間前のミーティングが始まってもタイヤがありませんでした。最終的にタイヤが届いたのは、走行開始の30分前くらいだったと思います。ベルギーGPでは以前契約していたドライバーに訴訟を起こされて、クルマを差し押さえられたこともありました。
それから日本GPでもお金を払っていなかったので、サーキットに到着してもしばらくモーターホームに入れませんでした……。ガレージの外で座って食事をしていたら、バーニー(エクレストン/当時のF1最高経営責任者)がそれ見兼ねて、食事の場所を提供してくれたくらいです。
この年はチーフレースエンジニアの立場だったので、難しい状況の時こそチームが崩壊しないようにまとめなければいけないと考えていて、そこが前年との大きな違いでした。僕が唯一心がけていたのは、自分にできることは限られているけれど、きちんとした姿勢でオーナーたちに対処していれば、少なくとも僕のレベルまではチームの状況をちゃんと理解してどうにかしようとしているということを他のスタッフたちはわかってくれるかな、ということでした。
今のハースは、2014年や2015年とは違いますが、また別の厳しい状況にあります。うちは小さいチームなので、限られた人数のなかで問題意識を共通させることは簡単なように見えますが、実はなかなかできていない。これができないと、チームとして前に進むのが本当に大変です。またウチは設計や空力を担当している人たちはイタリアにいるので、そういう意味でもコミュニケーションは簡単ではありません。
なのでイギリスGP明けからギュンターとイタリアに行って、デザイナーたちや空力担当のスタッフらと話し合いをしました。イタリアと一言に言っても、デザイナーはダラーラの事務所で仕事をしているし、空力エンジニアはマラネロの事務所にいるので、これまたすべての人たちと一度に話すことは難しいんです。ビデオ会議などは常に活用していますが、やはり問題が難しかったり繊細になればなるほど実際に顔を突き合わせて話し合わないとダメですね。時間はかかりましたが、行った意味は十分にあったと思っています。
次の第11戦ドイツGPも暑かったり雨だったりと大変だとは思いますが、ドイツでもシルバーストンと同様に、ロマンのクルマをメルボルン仕様で走らせて、データ収集を続ける予定です。ケビンのクルマはイギリスGP仕様からドイツGP仕様にアップデートして、これがしっかりと機能しているかどうかきちんと見極めなければいけません。やること満載ですが、目標は常にダブル入賞です。