更新日: 2020.12.28 11:48
【中野信治のF1分析ラスト3連戦】炎に包まれたドライバーの恐怖。F1昇格決めた角田裕毅の最大の武器
■最後の最後でフェルスタッペンとレッドブル・ホンダがメルセデスに完勝
そして2020年の最終戦となる第17戦アブダビGPでは、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンがポール・トゥ・ウインでシーズンを締めくくりました。この勝利もちょっと予想外で、いい意味で驚かされましたね。我々日本人にとっては本当に素晴らしい結果でした。
ヤス・マリーナ・サーキットがレッドブル・ホンダのマシン特性に合っていたということも大きいでしょう。対してメルセデスもそこまで苦労している様子は見えませんでしたが、いつもほどの余裕はなかったですね。コースも特殊といえば特殊なサーキットなので、その特殊な部分がメルセデスにとってポジティブに出るかネガティブに出るかで言うと、今回はネガティブな方に出てしまったということですね。
ヤス・マリーナ・サーキットは、高速コーナーがあまりなくて路面も平坦で綺麗です。ですので、他のサーキットのようにいわゆる高速コーナーが多くあり、路面がバンピーで、空力が重要かつサスペンションジオメトリーの完成度の高いクルマが絶対的に速いわけではない。なんとなく平均点のクルマでもそこそこ走れてしまうのがヤス・マリーナ・サーキットの僕のなかでのイメージです。
そういった意味でのマシンの差というのは出にくいのかなと思います。ただ、後半セクションを見ると回答性の良いマシンが速いのだろうなと感じます。そのあたりがレッドブル・ホンダのマシンに有利だというサーキットの造りになっています。
そのことに加え、今回はホンダがパワーユニットをすごく攻めていたんではないかとも思います。最終戦ということもあってエンジンを守る必要もない。ですので今回はかなりホンダが予選から決勝まで攻めていたと感じます。そのこともフェルスタッペンの優勝を後押ししたのではないでしょうか。
今回はチームメイトのアレクサンダー・アルボンも、終盤にハミルトンを追い詰めていたので、レッドブルのマシン特性だけではなく、ホンダのパワーユニットのパフォーマンスと合わせて、その両方を引き出したのがフェルスタッペンとアルボンでした。アルボンも最終戦の走りで2021年に望みを繋いだのか繋いでいないのかは分からないですが、アルボンなりの見せ場を作っていました。本当に来シーズンに繋がる終わり方でしたね。
■角田裕毅、F1昇格を決めたFIA-F2の見事な戦いと最大の武器
そして今季FIA-F2に参戦していた角田裕毅ですが、最終戦となるサクヒールGPでは2レースとも見事な走りを見せてくれました。スーパーライセンスポイントなど、結構いろいろなプレッシャーもあったとは思いますが、そんなプレッシャーなど微塵も感じさない走りをしてくれました。
レース1では、スタートでは決して無理せず、初めからタイヤマネージメントをして接触しないことを心がけていましたね。そして絶対的なペースに自信があったので、後半勝負という風に決めたレース展開のように僕には見えました。全ドライバーのなかで一番冷静にレースを進めていたのが角田でしたね。
逆に他のドライバーたちは、そんなにタイヤが持つわけないだろうというドライビング、若いドライバーにありがちなドライビングをしていましたね(苦笑)。そんななかで角田は誰よりも冷静にレースをしていて、本当に状況が見えているなと思いました。
みんなが熱くなるような状況で、あれだけ冷静にいられるドライバーはなかなかいないと思います。見ていると『他のドライバーもできそう』とも思いますが、実際はなかなかできません。それが角田の強みですね。
他のドライバーたちも、レースの前半にあれだけプッシュすれば、後半にはタイヤがキツくなることは分かっているはずです。特にレース前半はタイヤの内圧が上がっていなくて、内圧が低い状態でプッシュするとすぐにタイヤがダメになってしまいます。
角田はそのあたりを完璧に見切っているといいますか、F2初年度ながら、4~5年参戦しているドライバーのような落ち着きをもってレースをコントロールしているなと思います。ああいった落ち着いたレースはなかなかできないと思うので、本当に角田の真骨頂ですね。
あと角田はオーバーテイクもうまいですね。自信を持って追い抜きをしているし、自分の速さを自覚しているので、スタート直後に順位を落とすことをまったく気にしていない。レース2のファイナルラップの最終コーナーでダニエル・ティクトゥム(ダムス)をオーバーテイクして2位表彰台を獲得するなど、このレースがどういうレースなのかということをすごく理解しています。状況を慌てずにコントロールできるメンタルの強さも持っているドライバーです。
角田の話ではないのですが、少し気になったのはレース2でのミック・シューマッハー(プレマ・レーシング)ですね。チャンピオンは獲得しましたが、レースの内容としてはダメでしたね。結局ノーポイントに終わって締りがないというか、最後の最後に『こういうレースをしちゃダメじゃないか』という風に思ってしまいました(苦笑)。ミックと角田の差ではないですけれども、最終戦だけを見ると角田のほうに伸びしろを感じましたね。ミックにはポイントリーダーとして、もう少し良い走りを見せてほしかったなと思いました。
F2での1年間の戦いを見てきて、角田はクルマの限界を本当に早い段階で見極めるのがうまいドライバーです。彼は時間をそんなに必要としない走らせ方をします。それはすごいアドバンテージで、ブレーキの踏み方やステアリングの切り方、タイヤの感じ方をクルマの限界点で引き出すスピードが本当に速い。それは本当にこれからの強みになっていくと思いますし、あとは冷静さですね。
イタリアのムジェロ・サーキットで行われた第9戦のときには、角田が冷静さを一瞬失ってしまっているように見えて『結構焦っているな』と僕は思いました。ですが、それ以外のレースでは本当にうまくコントロールをしていました。角田には強さもあるので、F1に昇格してからも非常に楽しみにしています。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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