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投稿日: 2024.08.02 12:05
更新日: 2024.08.02 12:24

日本には「準備できているドライバーがあまりいない」。中嶋一貴TGR-E副会長が考える“育成の論点”と、重要な“経験”


ル・マン/WEC | 日本には「準備できているドライバーがあまりいない」。中嶋一貴TGR-E副会長が考える“育成の論点”と、重要な“経験”

──たとえば現在の日本のトップカテゴリーでも、福住仁嶺選手や笹原右京選手など、海外指向の強いドライバーはいると思いますが、彼らが海外に出たいとなったときにその受け皿がどこまであるのか、あるいはそこはあくまで競争の原理のなかで本当に力のある者だけがチャンスを得るのか、そのあたりはいかがでしょうか。

一貴副会長:基本的には競争の原理だと思うので、日本でやっているドライバーに『いろいろな要素も含めての実力』があれば、なにも問題はないと思います。ただ、フラットな目線で見て、いますぐに連れてきて即戦力でやれるのかというと疑問が残るところもあるし、足りない経験もあると思っています。

 ちょっと難しいと感じるのは、日本で一線級まで上り詰めているドライバーが、どうやってヨーロッパで経験を積むのか、という部分ですね。日本のカテゴリーをどこに置くのかという問題もありますが、莉朋が今年やっていること(FIA F2/ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズのLMP2)も、目線によっては(スーパーフォーミュラ/GT500と比べて)ダウングレードしているように見えることもあると思うんですよね。

 でも結局、いま莉朋がやっていることをどこかで経験しないと、F1にしろWEC(ハイパーカー)にしろ、世界のトップのカテゴリーにはなかなか行けないのが現実だと思います。

 だから、たとえば仁嶺や右京が(海外に出たい)、ということであれば、それはどこかで必要になってくると思うので、もし本当にそういう希望が本人たちにあって、それだけの適性があるとなった場合は、僕個人的にはそれ(F2やELMS)を経験しないと難しいかな、というのはあります。

トヨタGR010ハイブリッド
サルト・サーキットを走る7号車トヨタGR010ハイブリッド 2024ル・マン24時間

──とくに福住選手の場合、一度FIA F2には出ていますし、もう一度それをやる意味がどこにあるのか、という話にもなってきそうです。

一貴副会長:そうですね、ELMSだって「モチベーション的にどうなの?」という見方はあるとは思いますが、僕としては必要な経験でもあると思います。やっぱり、レースのプロシージャー(手順)なども含めて、日本とは全然違う複雑さもありますし、英語ネイティブにとっても訳が分からないような(苦笑)複雑なルールもあるなかで、いきなりハイパーカーに安心して放り込めるかというと、やっぱり結構難しい部分もありますね。

 日本人のドライバーを育てていくことについては、僕らだけでなく(WECの)チームメンバーを含めてすごく前向きなんですよ。とくにデビッド(・フルーリー/テクニカルディレクター)なんかは、そこはすごくオープンでサポーティブですし、今年莉朋をリザーブに置くというのは、チームの判断でそうしていますから。そういったメンタリティは、チームのなかにすごく大きくあるので、チャンスはいくらでもあると思います。

 ただ、日本でレースをしているだけでは足りないものがたくさんあるので、バックグラウンドで、個人の努力でやれることはやっておいてほしいですね。莉朋に関しては、日本でしかレースしていない割には頑張って努力してきた部分も見えたので、今年(の参戦プログラム)があるという部分はありますが、それでもヨーロッパに来てみれば、まだまだ足りないところはたくさんあるので、こればっかりは経験を積むしかないと思います。その経験を積む機会をできるだけ作っていってあげるということが、自分たちの役割かなと思っています。

2024WEC第3戦スパ
中嶋一貴TGR-E副会長と、WEC第3戦にレクサスRC F GT3で代役出場した宮田莉朋


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