更新日: 2024.10.17 07:46
【WECジェントルマン物語vol.1】走れる実業家のオモテ稼業とは。プライベートジェット250機保有って本当?
●クレメント・マテウ(クレモン・マテューが正しい発音だそう)
#777 Dステーション・レーシング/アストンマーティン
ル・マンを除いた今季のWECで、Dステーションの777号車をドライブしているのが、43歳のフランス人、クレモン・マテュー。
モンペリエ出身のマテューは、16歳の頃、父に連れられて初めてレーシングカートを体験した。当時は父がメカニックを務めてくれ、ふたりはいい時間を過ごしたという。ここでレースに魅了されたマテューは、19歳の時にはル・マンにあるレーシングスクール『ラ・フィリエール』へ。この時、選考に当たったのは、セバスチャン・ブルデーで、彼の推薦でマテューは入学を勝ち取っている。同級生として世界に羽ばたいたのは、シモン・パジェノーだ。
このラ・フィリエール時代も含め、2002~2004年までフォーミュラ・ルノーで戦ったマテュー。だが、なかなか好結果が出せなかったため、自身はドライバー活動を一旦停止し、家業を手伝うことになる。
その家業は、クルマのラッピングフィルムを製造する『ヘクシス』だ。フォーミュラ・ルノー時代、マテューは早々に『ヘクシス・レーシング』を立ち上げており、ドライバーとしての活動を休止した後も、チーム活動は継続。次第に活躍の場を広げ、2011年にはFIA GT1世界選手権にアストンマーティンで出場している。
その後、チームは2013年に解散を発表したが、マテュー自身は2015年からドライバー活動を10年ぶりに再開。クリオカップやセアトカップを経て、ポルシェ・スーパーカップにも出場し、夢のひとつだったモナコでのレースに出場した。またスパ24時間レースでもアマチュアクラスで優勝。総合でも4位に入るなど着実にステップを踏んできた。
そして、今年はWECに参戦を開始。ヘクシスには世界中に顧客がいるため、レースのために各国のサーキットへ行くと、マテューに会うために顧客が足を運んでくるという。時には、サーキットで商談を行うこともあるそう。ちなみに、今回の富士大会でもヘクシスの顧客が来場していた。
マテュー自身は富士に入る前、中国に立ち寄り、そこでも顧客とのミーティングを行ったのだが、それが「レースに向けていい時差調整にもなる」ということだ。そんなマテューにとって、もっとも大きな夢はやはりル・マン24時間レースに出場すること。「いつ、その夢が叶うのかは分からない」というが、これからもチャレンジを続けるという。
●トーマス・フロー
#54 ビスタAFコルセ/フェラーリ
先月の富士大会で、見事クラス優勝を果たしたのが、ビスタAFコルセの54号車、フェラーリ296 GT3。この車両のジェントルマンドライバーが、64歳のスイス人、トーマス・フローだ。
チーム名にあるビスタは、フローが経営しているプライベートジェット専門の航空会社。一方、フロー自身は、子どもの頃からモータースポーツ好きで、カートにも乗っていた。12年前まではラリーに参戦しており、その後サーキットレースに転向している。
ビジネスに関しては、大学を出た後、シカゴをベースとするPCや関連機器のリース業を営むコムディスコに就職。その後、同社欧州部門のトップ、さらに同社の全世界金融部門のトップを務めた。最終的には、コムディスコの欧州事業のほとんどを買収し、現在も経営を行なっている。
その傍ら、2003年には最初のボンバルディア機を購入し、1機でビスタ・ジェットを立ち上げた。そこからビジネスを広げて、現在では250機ものプライベートジェットを持ち、全世界に顧客を抱えている。もちろん日本にも多くの顧客がいるため、同社のウェブサイトには日本語表示も。ヴィスタが持っているもっとも大きい機体はボンバルディエのグローバル7500ということで、15時間までのフライトが可能。
なので、日本から米国やヨーロッパにも飛べるのだ。そんなわけで、日々仕事にも多くの時間を取られるフローだが、レースでの速さを維持するために、ほぼ毎朝、専属トレーナーとともに数時間のフィットネスを行なっているという。
耐久レースで大切なのは安定性。98%の力で長く走り続けられる身体作りを目指しているのだ。そして、フィットネス後は、仕事に没頭。たまに息抜きとして楽しむのが趣味の料理だと言う。得意なのはイタリアン。一度ご相伴にあずかりたいものだ。
●フランソワ・エリオ
#55 ビスタAFコルセ/フェラーリ
先月の富士大会、予選で見事クラスPPを奪ったのが、ビスタAFコルセが走らせるフェラーリ296 GT3の55号車。そのステアリングを握ったのが41歳のフランス人、フランソワ・エリオだ。
エリオは、ブルターニュ地方のレンヌ出身ということで、子どもの頃からル・マン24時間レースを現場で観戦しており、最初に憧れたクルマはマクラーレンF1 GTRだった(今ドライブしているのはフェラーリだが)。
ただ、プロのレーシングドライバーになるのは実現不可能な夢だろうと思い、18歳まではサッカーに熱中。父がカートに乗るなど若い頃からレース好きだったということで、その影響を受け、自身もサッカーを辞めた後にはレーシングカートを始めた。26歳の時にはレースにも参戦を開始。最初は友人が中古車のパーツを寄せ集めて作ったレーシングカーをテストし、結果が良かったため、そのクルマでフランスのFUNYOという選手権に参戦した。
その活動を数年続けた後、LMP3クラスでELMSにステップアップして4年間参戦。さらに、LMP2クラスにステップアップを果たし、ELMSに2年間出場している。昨年はIMSAにも活動の場を広げた。そして、プロトタイプから、今年はGT3にスイッチ。WECにフル参戦を果たした。
そんなエリオの職業は、祖父が創立した『カーラック・ミネラルズ』という会社の社長。31歳の時には父から経営を引き継ぎ、運営している。この会社は、歴史的建造物の屋根葺きプロジェクトの需要に応えることから事業を開始。世界に7つの生産拠点があり、屋根葺き、防水、マルチング、材料充填用の100種類以上の鉱物製品を提供している。
近日公開の次回は、WECフルシーズンデビューイヤーを戦う日本人の小泉洋史や、中東オマーン出身で、今季はバレンティーノ・ロッシの相棒を務めるアハマド・アル・ハーティなど、シボレー/BMW/ランボルギーニに乗る6人をお届けする予定だ。