更新日: 2016.05.31 23:06
【大谷達也コラム】自動車メーカー×モータースポーツ、変わりゆく役割と“変革”
では、「第2の変革」はなにか? アウディのWRC参戦が始まった直後、耐久レース界ではグループCが誕生し、ポルシェ956/962Cが大活躍した。それもワークスチームだけが勝ち続けるのではなく、956/962Cを購入したプライベートチームも次第に力をつけると栄冠を勝ち取るようになったのである。この種の、自動車メーカーが開発したレーシングカーをプライベートチームに販売してその活動を支援することをカスタマーレーシングと呼ぶが、それを初めて本格的に、そして世界的規模で行ったのはポルシェだった。
当時、ポルシェはレーシングカーである956/962Cに量産車と同じような形態でパーツナンバーを付与し、世界のどこの国からでもこのパーツナンバーひとつで発注を受け付けるとともに、量産車用補修部品と同じスピードで各地にデリバリーしていた。実は、同様のシステムはグループC以前に構築されていたようだが、ここでは特に顕著な例として956/962Cを「第2の変革」の中核に据えることとしたい。
自動車メーカーによる「第3の変革」は、メルセデスベンツによるAMGの買収にあった。ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトのAとエバハルト・メルヒャーのM、そしてシュツットガルト近郊の地名であるグロースアスパッハのGをとってAMGと名付けられたレーシングカーとロードカーのチューニング・スペシャリストは、当初メルセデスとの資本関係はなかったものの、やがて段階的にメルセデスが株式を取得し、2005年には完全に買収された。
ここで興味深いのは、メルセデス(厳密には当時そのブランドを有していた自動車メーカーのダイムラー・クライスラーAG)が買収したのはAMGのロードカー部門とのその名称の使用権であって、レース活動はアウフレヒトが改めて設立したHWA社に委ねられた点にある。つまりメルセデスは、モータースポーツ界で名を馳せたAMGというブランドをロードカー販売で活用するために手に入れたのである。
以上に挙げた3つの変革が、自動車メーカーのモータースポーツ活動にさらなる変革をもたらしたかについては後編で解説する。