LMDh車両でのWEC参戦は「明言できない」2023年はワークス活動に集中へ【BMWモータースポーツ代表に聞く/前編】
──今年のル・マンのレースウイークのパドックでは、いま行われているル・マン24時間レースよりも、来年からいよいよ参加台数が増えるLMH(ル・マン・ハイパーカー)/LMDhの話題で持ち切りという印象を受けました。
AR:WECやル・マンにとっても、ビッグイベントになることは間違いないだけに、人々の話題がそちらへ向くのは理解できる。さまざまなメーカーのマシンがWEC・IMSA両シリーズに参戦できるというコンセプトは素晴らしいし、スポーツプロトタイプとして、またエンデュランスレースにとって多くのメーカーが賛同している。メーカーだけでなく、チームやドライバー、ファンも主催者も含めてみんなが新時代を喜び、そしてみんなで盛り上げて行けると思う。
IMSA/ACOのLMDhへの決断は正しかったと思うし、以前のLMP1等に比べてコスト面では随分と削減できたことは、車両をつくるメーカー側として大きな魅力のひとつだった。それによってフェアでコンペティティブなモータースポーツを期待できる。
──いまコスト面のお話しが出ましたが、もしもBMWがLMDhをカスタマーチームに販売するとなった場合、車両価格や年間のランニングコスト、そしてチーム運営費用は大体どれくらいを想定していますか?
AR:車両価格とパーツに関しては、ACOのレギュレーションに基づいているので、BMWに限らずどのメーカーもほぼ同じような価格になるはずだ。年間のランニングコストに関しては、LMP2の約2倍ほどを想定している。
いまLMP2クラスに参戦しているチームの経済格差は非常に大きいので、一概にどこかのチームを基準とすることはできないが、平均的に考えるとその程度の金額ではないかと思う。クルマを動かすことに関して、LMP2よりもレースでの人員は増えるし、LMP2よりも高度な知識や経験を持った人員も必要となるので、その分人件費も多く見積もる必要が出るというのも、LMP2よりも運営コスト面で多く必要となるひとつのポイントとなる。
──どのメーカーのLMDhも同じような価格帯となると、販売するメーカー側としては魅力的なパッケージを用意しないといけないということになりますね。
AR:そのために現在、LMDhを開発しているメーカーは、メーカーの特色を活かしたデザインや車両ポテンシャルをベースに、かなりの工夫をしてマシン作りをしている最中だ。基本的にはいまのLMP2と同じような感じになると思う。
BMWはダラーラのシャシーを使用するが、各メーカーで自由に選べる。従って、カスタマーチームも選択肢が増えるのは良いことだし、現在LMP2ではほぼオレカ一択だが、LMDhではバラエティ豊かになるので、メーカー側もカスタマーチームから選ばれるような魅力的なマシンを作るべく努力するので相乗効果になるのは良い方向だ。
また、私が推測するには、将来的なLMP2クラスもいまのようなオレカ独占状態ではなく、さまざまなメーカーが参入するのではないかと思う。シャシーメーカーにとってもLMDhだけに顧客を持つのではなく、LMP2チームへ販路を広げる良いチャンスだ。シャシーメーカーも今回のLMDhで個別にACOとさまざまな話し合いを重ねており、今後の可能性を理解し、計画しているだろう。遅かれ早かれ、LMP2にも新時代が訪れるのは間違いない。
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BMWのWEC/ル・マンへの参戦については、7月末にBMW本社の役員会議にかけられるとの情報がある。また、『M ハイブリッドV8』は6月中旬にイタリアでシェイクダウンを済ませたとの情報もある。今後は8月にテストを行い、その後マシンはアメリカへと移される予定だ。
インタビュー後編では、LMDhにおける参戦体制の構築や若手育成ドライバーの起用、将来のWECにおけるGTクラスの“GT3化”と、その結果としての“グリッド争奪戦”などについて、ルース氏の考えをお届けする予定だ。