初来日の“苦労人”ディルマンがオートポリスでみせた速さの片鱗。片岡龍也監督も太鼓判
そして厳しい状況、短い走行時間のなかでも「もっとも慣れが必要なのはタイヤだ」とディルマンはスーパーフォーミュラのキモを早くに見抜き、「我々のチームはソフトについてはともかく、ミディアムでのパフォーマンスに苦しんでいる面がある。(ミディアム使用限定の)Q1が課題になるね」と現況もきっちり把握していたあたり、適応力の高さの片鱗が感じられた。
決勝が荒天で中止となり、「残念だよ。僕はもちろん、集まってくれた観客のみんなも残念だろうし、申し訳なく思う」と、苦労人らしくファンへの気遣いも厚いディルマン。
「我々のチームにとっては難しいウイークエンドだった。僕自身、すべてが初めて、ということもあったしね。次のSUGO戦もすぐだけど、今度は僕もまったく(このカテゴリーが)初めてというわけではない。今回の経験を活かしてセットアップを進め、チームと一緒に強くなっていきたいね。結構多くの走行ラインがあるオートポリスに比べれば、SUGOではその面でも取り組みやすいと思う」

初めて尽くしのなかでも、コースがオートポリスというのは特に厳しい要素だったかもしれない。ディルマン担当エンジニアで、F1トップチーム経験も豊富なスティーブ・クラーク氏も「コース的に見て、SUGOは彼にとってここよりはイージーだろう」と同趣の談話を残している。
さらにクラーク氏は「彼とは初めて会ったんだが、今回のとても難しい状況のなかでも、いろいろと学習していたと思う」とディルマンを評す。僚友の大嶋にとっても厳しい状況があったことは前提ながらも、「トムは予選でもチームメイトに大きなタイム差をつけられてはいなかった」と、スピードにも一定の評価をしている。
フランス国籍のドライバーといえば、今年はガスリー、エステバン・オコン、ロマン・グロージャンとF1現役選手が3人もいて、隣国モナコ籍のシャルル・ルクレールも含めればF1全体の2割を占める大勢力。しかし、かつてアラン・プロストを生んだ国も、一時ドライバー市場において苦境を味わい、今世紀に入ってからはF1ドライバー不在になったことさえあったはずだ。
日本でもおなじみのロイック・デュバル(1982年生まれ)らの世代がF1シート争奪戦ではもっとも苦戦した世代だろう。今の若手であるガスリー、オコン(ともに96年生まれ)らは、もちろん本人たちの才能と努力があっての話だが、おそらくはフランス・レース界の人々の危機感が陽に陰に後押しともなった世代と考えられる。
ディルマンや故ジュール・ビアンキ(ともに89年生まれ)はデュバル世代とガスリー世代の中間といえるが、まだまだ厳しい環境下で、特にディルマンは実力に見合ったチャンスを充分に得ていたとはいえず、冒頭の「速いんだけど……」という状況に甘んじることになっていたものと見られる。
そういう彼が、今回のチャンスを得て日本で存在感を高める可能性は充分にありそうだ。過去にもスーパーGTでは日本での事前知名度は高くないながらも素晴らしい力量を見せた存在としてフレデリック・マコウィッキがいたし、なにより昨年はスーパーフォーミュラで、今年はスーパーGTでTEAM LEMANSのドライバーとして大活躍しているフェリックス・ローゼンクヴィストがいる(マカオF3ウイナーながら、彼も来日前は日本にとって“派手系”ではなかった)。
スーパーフォーミュラのマシンのフィーリングを「ベリーグッドだ。やはり軽いことが最大の特徴だと思う。ダウンフォースも大きいしね」と笑顔で話すディルマン。
「チームのみんなはとてもプロフェッショナルだし、モチベーションに満ちていると感じた。今回は難しかったけれど、次のSUGOではセッティングのスイートスポットを見つけて、ビッグステップを踏みたい」。またひとり、スーパーフォーミュラに楽しみな新顔が加わった。