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投稿日: 2024.05.21 12:09
更新日: 2024.07.01 14:16

【GT300マシンフォーカス】空力と足回りで「リヤを助ける」。模索が続く新型アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ


スーパーGT | 【GT300マシンフォーカス】空力と足回りで「リヤを助ける」。模索が続く新型アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ

 登録されている前後のスプリングは5種類だが、ワンメイクタイヤが主体となる海外レースでの主流は柔らか目のスプリング。しかし、GT300の現状では「上から数えた方が早いくらいのスプリングの硬さ」になっており、キャンバー設定に関しても許容範囲を「ダンロップさんと相談しながら」模索しているような段階だ。

「アンチロールバーも選択肢があるわけではなく、板状のバー(ブレード)に対し回してアジャストを行い、8段階の範囲でしか調整できません。ロール剛性もなるべく硬めに持っていくのですけど、その部分での調整範囲に留まってしまいます。そこから先は『バンプラバーにも手を出すか』となりますけど、まだこのクルマは本当に数カ月の世界で、走行距離を稼げていないこともあり、僕たちもしっかりとした評価を下すことができていません」

 こうした状況も踏まえながら、先代の“メカニカルグリップが得意ではない”部分に関しては確かな進化を感じており、サスペンションアームのモノコック側取り付け点や、アップライト側双方で見直されたジオメトリーと空力中心の移動により「数字を見ても明らかに『リヤ寄りの方向を持っている』ことがわかる」バランスになっているという。

「先代はメカニカルグリップに関してはナーバスな部分が多かったです。バランス的に前寄りになりがちなクルマで、どうしてもリヤの軽さが出てしまい、すごく不安定になってしまいます。ターンインで『これからコーナーに入りますよ』というときに(リヤが)動くので、それを抑えようとするが為にミッドでアンダーステア、というようなクルマでした。ターボラグも含め、先代はストップ&ゴーサーキットがすごく苦手で、モビリティリゾートもてぎはかなり鬼門でしたね(苦笑)」と荒エンジニア。

 その“ナーバスな部分”は「おそらく、全世界のユーザーからフィードバックがあった」と推測される変化として、今回の“エボ”で手が打たれた。基本的なシャシー構造や搭載する3992.5ccのV型8気筒ツインターボエンジンに変化がない分、前後の重量配分こそ大きな改善が望めないなか、ジオメトリー変更が効果を発揮しているようだ。

【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
D’station Vantage GT3のリヤハッチ内

 第2戦の富士こそ、経験値不足の観点でリヤタイヤのアクシデントが多発するなど、現在もトライ&エラーが続いているD’station Vantage GT3。しかし、急きょエンジン交換をすることになった開幕戦岡山では、持ち込んでいたハード側のタイヤセットで“4輪無交換”を試すなど、タイヤ磨耗の点でも「GT3では難しい……という先入観を払拭する」可能性を見いだすようなプラス効果を生んでいる。

「アンチダイブ、アンチリフト、ロールセンターなどを含め、あらゆる要素がありますが、そういった部分も『とにかくリヤをケアするような方向』に持っていき、そこに余裕が出た分だけ他に手を回せる部分が増えました。エアロ面では先代の少し前寄りだった部分を、“エボ”ではフロントスプリッターの張り出しを抑えて奥へ持ってきています。これによって空力中心がわずかに後方へと下がり、リヤエリアに流れる風をケアしてくれているおかげで、リヤもしっかりとダウンフォースが出ています」

 リヤのダウンフォースについては、定められた120リッターの燃料タンクが満タンから燃料が減っていく状況でも「リヤの上部にすべて乗っていた重量が変動する際に助けになる」方向性だというが、エンジンに関してはBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整、スーパーGTでは参加条件)により「せっかくのターボエンジンですけど、パワーが活かせないような状況」で、ストレート勝負は現状「イメージはない」という。

「タイヤがいかに持ったとしても、GT3は燃料がボトルネックになり戦略が決まってしまう部分があります。GT3でもやはりNA(自然吸気)のクルマ……例えばメルセデス(AMG GT3)の方が有利ですし、ターボ車両ではBMW(M4 GT3)の数字を見るとわかるのですが、指定されているラムダ(λ/空燃比)がBMWだけ極端に薄いです。(過給圧レシオ)1.10(アストンマーティンは0.91)が指定されているほどのリーンバーン(希薄燃焼/理論空燃比より燃料が少ない状態での燃焼)で、排気量が異なるので同じブーストとは言えないにしても、同じパワーレベルに持っていく点で空燃比が違うので、ものすごく燃費が良いのだと思います」と、このバンテージAMR GT3“エボ”が搭載するメルセデスAMG由来のツインターボは、現状の“3時間”タイムレースでも優位性はないと見ている。

【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
エンジンや補機類が搭載されるD’station Vantage GT3のフロントボンネット内
【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
3992.5ccのV型8気筒ツインターボエンジンは限りなくコックピットに近いフロントミッドシップ下部に搭載される

 レースフォーマットが異なるアジアン・ル・マンやGTワールドチャレンジでは、レース距離自体が短い場合もあり、ピットの停止時間が指定されているため、作業時にピットタイマーのカウントを待つ余裕があるなど、そもそも『作業時間』そのものが競技に組み込まれるカテゴリーではない。その点、スーパーGTでは燃費的に「乗れて1時間ちょっと」という現状に対し、勝つために何らかの“飛び道具”が必要となる。

 これまではタイヤ摩耗が「フロントに偏っていた」というバランス改善も進み、車体とタイヤの使い方双方の理解が進めば「燃料で戦略が決まってしまっているのが現状」という状況を逆手に取り、給油時間プラスアルファでピットを後にする夏場の2輪、もしくは無交換での勝負が見られるかもしれない。

【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
D’station Vantage GT3のボンネットに備わる大型のエアアウトレット
【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
D’station Vantage GT3のコックピット
D’station Vantage GT3
2024スーパーGT第2戦富士 D’station Vantage GT3
【GT300マシンフォーカス】アストンマーティン・バンテージAMR GT3エボ
D’station Racingのチーフエンジニアを務める荒重憲氏


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