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投稿日: 2016.07.27 22:18
更新日: 2016.07.27 22:38

e-tron、AMG、M……パフォーマンス・ブランドの役割を考える──大谷達也コラム第2回


クルマ | e-tron、AMG、M……パフォーマンス・ブランドの役割を考える──大谷達也コラム第2回

 自動車メーカーがカスタマーレーシングに力を入れる理由は主にふたつある。ひとつは、文字どおりのカスタマーサービス。たとえばフェラーリの熱狂的なファンがいて、フェラーリのレーシングカーでレースに参戦することを熱望していたとすれば、そのファンにレーシングカーを供給して手厚くサポートすることは、彼らのフェラーリに対する愛情をさらに深めることに役立つ。しかも、こういうファンは一般的にいってフェラーリを複数台所有する優良顧客で、周囲に対する影響力も大きいことから、単に「1台のレーシングカーを販売する」よりもはるかに大きなプロモーション効果が得られるケースが多い。

 もうひとつは、カスタマーレーシングが自動車メーカーにとって経済的なモータースポーツ活動であると同時に、場合によっては自動車メーカーに利益をもたらす点にある。自動車メーカーが行うモータースポーツ活動は、トップカテゴリーのワークス参戦にしてもワンメイクレースへの支援にしても、多額の予算を“持ち出す”ことを意味してきた。その見返りとしてメーカーはブランドイメージの向上を図れるわけだが、カスタマーレーシングであれば自ら資金を投入しなくとも、顧客が代金を支払ってくれる。これは、自動車メーカーのモータースポーツ部門が従来の“お荷物”から利益を生み出す“優良部門”へと転換することを意味している。

 メルセデスによるAMG買収に見られる「第3の変革」は、これまで述べた「第1の変革」と「第2の変革」を組み合わせともいえる。「第1の変革」との違いは、それがキーテクノロジーではなく車名などに用いられるブランド(もしくはサブブランド)となることであり、「第2の変革」との違いは顧客に販売されるものがレーシングカーからスポーティな量産モデルに変わった点にある。同様の例としてはAMG以外にもBMWの“M”、ルノーの“ルノースポール”、ニッサンの“NISMO”などが挙げられる。また、これらのサブブランドを見てもわかるとおり、モータースポーツ活動は単にサブブランドのイメージ向上に役立つだけでなく、本体である自動車メーカーのスポーツ・イメージを引き立てるうえでも効果があるといえるだろう。

 こうして見ていくと、近年の自動車メーカーのモータースポーツ活動にはひとつのトレンドがあることに気づく。それは、モータースポーツ活動を着実に利益に結びつける構造が明確になっている、ということだ。流行の言葉で言えば“マネタイジング”である。自動車メーカーが利益を上げるには、商品である自動車を販売するか、レーシングカーなどを商品として販売するかのどちらかしか方法がない。前述した3つの改革は、いずれも商品を販売する、もしくは販売促進をするための手法といえる。いいかえれば、自動車メーカーにとってのモータースポーツ活動は、資金をジャブジャブと湯水のように使う従来の形態はもはや許されず、それ単体でも利益を生み出す構造が求められていると表現できる。

 いずれにしても、自動車メーカーのモータースポーツ活動がかつてのような夢やロマンだけでなく、ビジネスの一部として取り込まれつつあることは間違いないようだ。


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