更新日: 2021.12.08 15:55
元F1王者ジャッキー・スチュワートが語るチーム運営「SF3のあの勝利は私への贈り物」
Photo:SAN-EI
ついでに言わせてもらうが、我々の最終年となった1999年は、競争力だってかなりのものだった。ニュルブルクリンクを制した、それが何よりの証拠。今にも雨が降り出しそうな空模様を気にしながら、身悶えするように見守ったラスト20周が今でも忘れられない。ゲイリーと私とで、雨雲がやってくる方角のピットレーンの端までわざわざ歩いていって確かめたくらいなんだから。
あの勝利は私への贈り物だ。ついでに言えば奇跡でも何でもない。私たちが成し遂げたことを誇りと共に受け入れる。ポールと私は、絶対に勝てるはずがないと思われていた中で、正々堂々と勝利をもぎ取ったんだよ。
ルーベンスにとっては残念なレースになってしまったね。ジョニー(・ハーバート)と並んで表彰台に立ってくれたので私は言うことなしだが、ついに勝たせてやれなかった。それを思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
翌年からのフェラーリ移籍は、シーズン序盤には分かっていたことで、これもまた私の誇りのひとつ。彼が我々のチームに愛着を持ってくれたのもうれしかった。こんなことをバラしてもたぶん彼なら許してくれると思うが、フェラーリ行きが決まったと報告に来た時、彼は私の前で涙を流したんだよ。私はルーベンスからたくさんのものをもらったが、もっともうれしかったのがこのときの涙なんだ。
イモラで九死に一生の大クラッシュに見舞われ、その苦しい時期を乗り越えてスチュワートへやってきた。チームへの貢献は推して知るべし。その彼がいなくなるのは残念だし大きな損失だが、スクーデリアから誘われたとなれば、彼の将来のためにも祝福してあげねばと思った。ミハエルのチームメイトになることがいささか気懸かりだったがね。ルーベンスのあの速さがあれば、つねにとはいかなくてもミハエルを凌駕しても不思議ではない。現にそういうことがしばしば起きて、その度に自重を求められたそうじゃないか。
■今のF1は別次元
さてと、1999年シーズンを限りにフォードに身売りした、その理由を知りたいのだったね。チームを立ち上げた当初から、私には不安があった。「マクラーレンにまともに立ち向かえるのか」、「一度でもフェラーリを負かせられるのか」、という不安だ。とにかく真剣に考えた。
今のメルセデスを見てどう思う? 総勢1200名のスタッフを抱え、ドライバーはまるでバレエのプリマドンナのようだ。私たちが経営していたのでは、決してあのようなやり方はできない。いったいいくら掛かっているのか知らないが、私が目にしたこともない大金なのは確かだよ。
つい最近もマクラーレンとレッドブルを訪ねる機会があった。ウチの元スタッフがいて実は驚いたんだけどね。ともあれ、設備やら機材を眺めて、私はただ首を振るしかなかった。F1チームを運営するコストは、今や私の想像をはるかに超えている。小規模チームなどはもはや存在しない、私たちは紛れもないその小規模チームだったんだ。
ジャガーに衣替えしてからは、私はチーム経営にはろくに関与していない。役員に名を連ねているといっても、実際に物事を決断しチームを動かしているのはチェアマンだけだから、お飾りみたいなものさ。
ジャガーは結局のところ、レッドブルに買い取られるまで1勝も挙げられなかったね。彼らをくさすつもりはさらさらないが、つまるところフォードはアメリカ企業で、それがイギリスの会社を買収したところが問題だったのじゃないかね。だってホラ、F1はどう考えたって英国産業なわけだから。
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きっとジャッキーは、今季のレッドブル・ホンダの活躍を心から喜んでいるはずだ……。
『GP Car Story Vol.38 Stewart SF3』では、今回お届けしたジャッキー・スチュワートのインタビュー以外にも見どころ満載。SF3の生みの親アラン・ジェンキンス、育ての親ゲイリー・アンダーソンや、ルーベンス・バリチェロ&ジョニー・ハーバートのドライバー両名の他、ジャッキーの息子で共同経営者であったポールのインタビューはもちろんのこと、あまりメディアではフォーカスされることのない日本のメディア初出のエンジニア、メカニックのインタビューはどれも読み応えあり。
とくに編集部からの推薦は、当時その存在があまり知られていなかった日本人空力エンジニア田中俊雄氏の独占インタビュー。どれほど重要なポストでSF3の開発に従事したのかが分かる貴重なインタビューは必読! なぜ、SF3は成功できたのか、ぜひ読み取っていただきたい。
『GP Car Story Vol.38 Stewart SF3』は、12月8日発売。全国書店やインターネット通販サイトにてお買い求めください。内容の詳細と購入は三栄オンラインサイト(https://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=12137)まで。