ロリー・バーンが語る栄光のマシン。“バーン・エアロ”の集大成、『フェラーリF1-2000』
F1-2000では上方排気を継続採用している。これは98年スペインGPから当時のF300に搭載されたもので、のちに全チームがこの方式を真似した。バーン・エアロは常にトレンドメーカーなのである。
「あの時点で我々を含む多くのチームがディフューザーブローを行なっていた。もしくは、サスペンションアームを乗り越えてのロングテールパイプが主流だったんだ。しかし、ディフューザーブローはエンジンの使用状況で、ダウンフォースの変化がきわめて大きい。フルスロットルとブレーキング時にはまったく違う数値になるため、神経質な状況を作り出してしまうんだ」
「また、後者の手法ではテールパイプが複雑に曲がり、長くなってしまう。こうなると、エンジンパワーが出し切れなくなるんだよ」
確かにトルク的には長さも必要だが、パワー的には大口径ショートテールパイプが定番だ。
「我々のエンジンでは、ショートテールパイプが最もパワフルな状況を作ってくれたんだ。また、ボディワーク上面後方での排気で、リヤのビームウイングへのブローが実に有効なエアロキャラクターを作り出していた」
エアロの神経質な変化を避ける、エンジン性能を犠牲にしない、良好なエアロダイナミクス効率を得られる……と良いことづくめの上方排気だが、F300の頃からすでにF1-2000へ向けて着々と準備が進められていたのである。
また、F1-2000は最後のハイノーズを採用している。その後のマシンはスラントからローノーズへと変化していったが、彼のエアロコンセプトの変化なのだろうか。
「いや、レギュレーション変更に対応するためだ。実際、翌年からフロントウイングに関するレギュレーションが変わり、ハイノーズよりローノーズの方が効率が良くなった。でも、2000年のレギュレーション下では、まだハイノーズに多くの利点があったんだ」
つまり、ロリーがベネトン時代から始めたハイノーズエアロコンセプトの最終型が、F1-2000というわけだ。さらに彼は、F1-2000の基本コンセプトは、F300の進化型だとも言い切る。
「F300は短期間かつゼロから始めたマシンだったので、実にベーシックなモデルだった。そして、これをベースに、その後のマシンは進化していったんだ」
F1-2000はそれまで独特で珍しいV型80度バンク角の048エンジンから、90度バンク角の049に変更している(当時、F1エンジンは72度バンク角がトレンドであった)。これは大きな変化であり、単なる進化型には思えないところだが……。低重心化やエアロなど、多くの理由が隠されているのではないだろうか。
「いや、そういった問題ではないんだ」と、ロリーは筆者の問いを一蹴する。
「車体のねじれ剛性を上げるためだ。エンジンは車体の剛性部材、重要なストレスメンバーの剛性が高いことが、走行性能を大きく変えるからね。ナローエンジンでは剛性負担がつらく、わずかにV角を広げることで剛性は大きく変わり、エンジンの負担も楽になる。それだけだよ」
拍子抜けするロリーの説明だが、もちろん理屈にあった明確な答えだと言える。元々エンジンにトップパワーを求めないのがバーン・デザイン。現在、エアロやシャシーに対してエンジンに大きな負担を求めるデザイナーが実に多いのだが、ロリーのエンジン哲学にはしっかりとした基礎に基づく優しさまで感じてしまう。
エンジンが求めるショートテールパイプを上方排気でエアロの糧にして、ナローエンジンをワイド化してその負担を減らし、車体剛性アップも勝ち獲る……どこか一部分ではなく、ロリーのトータルパッケージのうまさが実に光るのだ。