更新日: 2020.09.24 12:58
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第11回】多重クラッシュは「起こる可能性があったのでは」初開催のムジェロは満身創痍
現行のレギュレーションでは、SC終了後はコントロールラインからオーバーテイクが許されていますが、ムジェロはそのコントロールラインがストレートの真ん中あたりにあるので、SCがピットに入ってから隊列がコントロールラインに到達するまでには比較的長い距離があります。長いストレートの後にあるターン1がオーバーテイクポイントなので、再スタートで後ろのクルマにピタッとつけられてしまっては、どうしようもありません。
ですから、これを避けるために先頭のバルテリ・ボッタス(メルセデス)はラインぎりぎりまでゆっくりと走ることになります。規則上では先頭のクルマが自由に隊列をコントロールできるので、そのラインまでゆっくり走っていた先頭のボッタスに非はありません。だから本当は、後ろのドライバーたちがもっと気をつけないといけないんですけどね。このルールが適用される限り、起こりうる可能性のあるアクシデントだったのではないでしょうか。
SCのライトの消灯が遅かったという指摘もあります。これが今回の事故の原因のひとつになったとは思います。しかし仮にもっと速くライトが消えていたとしても、今回のように先頭のドライバーがコントロールラインまでゆっくりと走ることも考えられます。というのもムジェロはストレートが長いので、最終コーナーから加速しても、背後のドライバーにスリップストリームを使われたら追い抜かれてしまう可能性があるからです。ライトの消灯のタイミングだけが今回のアクシデントの原因ではないと思います。
もし以前のように、SCライン1からオーバーテイクが許されていたら、全員がストレートを全開で走らないといけないので、今回のようなことは起こらなかったかもしれません。もちろん最終コーナーの手前で駆け引きになりますが、スピード差はそれほどありません。1コーナーで3台か4台のクルマが並んで接触することになる可能性もあります。しかし少なくとも、今回のように前でスピードを落として走っているクルマに後ろのクルマが全開で突っ込んでくるという事故は避けられるのではないでしょうか。
2台とももらい事故に巻き込まれるレースとなってしまいましたが、もし今後ムジェロでF1を開催する機会があるとしたら、ぜひやってほしいと思います。先ほども書きましたが、地形を活かした勾配があり、流れるような中高速コーナーがあるサーキットはドライバーとクルマの限界を試してくれます。
また賛否両論あるかもしれませんが、僕はグラベルがあるのがいいと思っています。ドライバーにとってはミスの代償も大きく、車もダメージを負うことになり、普通のアスファルトのランオフエリアを走るのとはタイムロスも異なりますが、グラベルは機械を使う人工的なトラックリミットとは違って“自然な”リミットになるので、僕はこういうサーキットの方がいいなと思います。個人的には、スパと鈴鹿と並んで、好きなサーキットのトップ3に走るのがこのムジェロです。こういうサーキットでのレースが増えるといいですね。
余談ですが、サーキットの周りはトスカーナ地方の山に囲まれていて、すごくきれいです。今回は3回ほど自転車でホテルとサーキットの移動をしました。僕らはフィレンツェに泊まっていたのですが、サーキットまで山をひとつ越えて片道55キロくらいです。日曜日は朝7時にホテルを出て、2時間ほどかけてサーキットまで行きました。ちょっと長かったですが、すごく精神的にリフレッシュできました。
連戦続きでハードな仕事環境なので、みんなそれぞれのやり方でオン・オフを切り替えてリセットすることがとても大事です。僕は自然があればハッピーな人間なので、機会を見つけてできるだけ自然のなかを走ったり自転車に乗ったりしてリフレッシュしています。
次はロシアです。初めて観客を大勢入れたレースになる予定です。ここも違った意味で難しいサーキットですが、まずはQ2進出、そしてレースではチャンスをモノにしたいと思います。