更新日: 2024.11.09 00:00
自分で決められなかった引き際。「中嶋悟さんに背中を押してもらって感謝しています」【山本尚貴SF引退会見全文】
──ご家族やチームメイトへの報告、その時の反応は。
「家族に関しては、驚きはあまりなかったですね。どこか安心した感じは見受けられました。やっぱり勝って欲しいと思う反面、無事に帰って欲しいというのが心の中にはあったのかなと思って、そういった負担をひとつ減らせたという意味ではちょっと安心させられたのかなと。家族も含めて寂しさはあると思いますが、安心したというのが一番かなと思います」
「チームに関してはここ最近ですね。事が事だったので、発表前に皆さんにお伝えすることはできませんでしたが、限られた人にはお伝えして、自分が思っていた以上に驚かれた・驚いてくれたという部分で、自分としてはそれに対して驚きました。やっぱり年齢や成績だったりとかで『しょうがないよね』という声の方が多いのかなと思っていたのですが、自分が思っていたのとはちょっと違うリアクションだったなという感じです」
──今日の専有走行でトップタイム。公式映像のインタビューでは感極まっているように見えたが。
「もうここに来るまでにたくさん泣いてきたので、今週流す涙は残ってないなと思っているので(笑)。天気予報が回復傾向なので、ドライタイヤで走れる鈴鹿は今日が最後ではなさそうですし、Q1・Q2含めればあと4回(アタックする)チャンスはあるのですが、5回のうち1回が終わっちゃったなぁという寂しさもあれば、さっき自信は失っていないとは言ったのですが、成績が残らなければドライバーとしては何がいけないんだろうと自分を責めてしまうもので、それが続くと自分の気持ちを保つこともなかなか辛かったのですが、最後、フリー走行とはいえニュータイヤを履いて、予選に向けて気持ちを入れて、1周にかけて走ったアタックの中で、今日参戦したドライバーの中で一番速かったというのは、最高に気持ちよかったです」
「このスーパーフォーミュラが好きと言ったのですが、ライバルと戦ってライバルに勝つことが僕は大好きだったので、ドライバーもそうですし、トヨタさんとのライバル関係で負けたくないっていう思いが自分の原動力だったと思います。そういったライバルたちの前に出て、一番を獲ったことで、改めて『一番っていいな』と思いました。最高のフリー走行だったと思います」
──スタンドには、泣いているファンもいた。
「ひと昔前なら金曜にお客さんがいるというのは、あまりなかったと思うのですが、自分が最後だということもあるかもしれませんが、金曜の段階でお客さんが来てくださって自分の最後を見届けてくれるファンの方もいたというのは、やっぱりすごく嬉しかったです」
「たくさん応援してもらっていたのは感じていたのですが、引退発表してから、SNSでものすごい(数の)メッセージが来ると『こんなに自分は応援されてたんだ。なんで辞めてから気がついたんだろう』と思うことが山ほどあって。他のアスリートの方も引退を宣言してからの同じ気持ちを分かってくれる方がいるかなと思うんですが、スーパーフォーミュラを退くことを決めてから、これだけたくさんの方に応援していただけたっていうのを再認識することができて……引退ってマイナスなことしかないと僕は思ってたんですけど、引退することでこんなにプラスなことがあるんだなっていうのを感じられたっていうのは、ものすごく収穫というか、嬉しい驚きだったなと思います。本当に幸せです」
■「すべてを降りる」ことも一瞬考えた
──15年やってきたフォーミュラカーレースの魅力は。そして引退後は。
「世界各国にレーシングカーはたくさんありますけど、やっぱりタイヤがむき出しで、もうまさにレーシングカーっていうものは、究極はやっぱりフォーミュラーカーだと思います。レーサーにとってフォーミュラカーに乗るということは、ものすごいウエイトを占めてるんだなと感じますし、一番速さを証明できるステージがフォーミュラーカーのレースになるのかなと思って。そこが一番の魅力かなと思います」
「なんか気持ち的には、完全に現役を引退するわけではないのですが、本音を言うと、全部(のカテゴリーから)降りるわけではないから、半分とか、3分の1くらいかなと思っていたものが、3分の2くらい、ぽっかり空いた感じは正直しました。それだけ、フォーミュラカーで走るということはウエイトを占めていたのかなと思いますし……ちょっとフォーミュラだけでなく、すべてのことから降りることを一瞬考えるくらい、メンタル的に落ちちゃったんですけど、そんな中で自分を奮い立たせてくれたのは、さきほども言ったファンの皆さんの応援ですね。自分が辞めることでこんなにも応援してくれていたんだ、と。『スーパーフォーミュラは降りても、スーパーGTは頑張ってください!』と言われたら、ここで気持ちを落としている場合じゃないな、と。まだみんなが求めていてくれて、頑張れって言ってくれるなら、頑張るしかないなと」
「これから先のスーパーフォーミュラへの関わりはまだ何も決めてないですし、決まったことは何もありませんが、この世界で15年間もやらせていただいた中で、自分の視点だったりとか、あとは自分がドライバーだったときに感じていたことだけどドライバーだからこそあまり首を突っ込めなかったりとか、余裕がなかったことがたくさんあるので、何かこのスーパーフォーミュラでの自分の知見が役に立つのであれば、もちろん業界の発展のために貢献したいなとは思っています。ただ、自分がやりたいと言っても、そういう受け皿がなければやれないので、そういったお仕事だったりとか、いいお話があれば、ぜひ引き受けさせていただきたいなと思っています」
──改めて、最終大会を前にして発表したということの思いは。
「自分の投稿にも書いたのですが、フォミュラカーに乗っている姿を最後に見てもらいたいという、ファンの方への恩返しが一番かなと思いましたし、終わった後に『実は、辞めます』というのは何かあまりにも寂しいかなと思いますし、これまでたくさん成績を残されてきた先輩方もたくさんいましたけど、みんなスーパーフォーミュラに関しての引き際というのはどれも少し寂しいなっていう。全部終わってから『乗らないの?』みたいなことをすごく目の当たりにしてきたので、最後自分の形がいいかどうかはもうやってみないと分からなかったのですが、精一杯の恩返しじゃないですけど、自分がこれが最後ですっていうことを言って、たくさん思いっきり応援してもらえたらなとていう思いがありました」